名人のこだわり「おせち」について
名人のこだわり
「おせち」について
おせちはお重に入っているような、まとめた物としては作りません。
お客様に頼まれて、おせち用に使えそうな一、二品を作る事はあります。
先日、お客様から「地元の猟師さんにもらった」と
熊の肉とイノシシの肉が持ち込まれまして「なんとかしてくれない?」
と依頼をいただきました。
普段自分のところで扱っているジビエであれば勝手も分かりますが
このように来た肉はどのような物かなんてわかりません。
だからこそ素材を活かして、なんてものではなくて、
加工をちゃんとやる、というのを第一に考えました。
イノシシはコウタケ(香茸)と調理をしました。
コウタケにはタンパク質分解酵素があります。
1時間半くらい時間をかけて、火を入れていったのですが
ほぼ肉がパテというよりもディップのような感じになってしまいました。
本当に溶けてしまうんです。
マイタケにも多少そういう所があって
パン生地にマイタケを入れて焼くと、周りにぽっかりと穴が開くんです。
キノコによってはそういったものもあるのですが、
それにしてもコウタケは凄かったですね。
イノシシ肉が1時間半ほどで全部溶けてしまい、
意図して作ったものの、パテのように作ったものが
「イノシシ肉ベースの、コウタケ風味ディップ」となりました。
参考画像「コウタケ」 wikipediaより引用(著作権者:H. Krisp)
次に熊ですが、この熊の肉が曲者なんです。
イノシシはどこまでいっても、まだ豚と近いので
特有の風味があっても、まだどうにかできます。
熊はあくまで『熊』。固有の風味があります。
その熊の食性によって随分違いが出る、と言われてはいるんですが
それでもやっぱりにおいが強いのです。
ちょうど今頃扱う物で、「数の子の塩抜き」がありますが、
塩気が無くなるまで抜いてしまうと美味しく無くなります。
それと同じ事で、やはりある程度肉の風味を残しつつ、
強く出てくる部分を取って、バランス調整の処理をします。
また、熊肉は堅いので
ボロボロにならないようにしつつ、
多少は柔らかくして、スライスして食べられる状態に。
その上で真空パックをして冷凍し、
お正月に食べて頂けるようにしました。
普通の調理でもそうですが、
ソースなどの前に、料理の土台である「加工」をしっかりする事が重要です。
おせちはまさに「加工」の料理、その典型と言えます。
おせちは加工する事で保存がきく物です。
フランス料理で言えばテリーヌ、リエット辺りでしょうか。
テリーヌは肉の鮮度が重要です。
普通の料理ではある程度熟成を、という事はありますが、
テリーヌでは鮮度が無いと、「甘くなる」という事はありますが
旨みが無くしょっぱいだけになってしまいます。
更に普通の料理の塩気よりもテリーヌの塩気の方が強いので
その分肉の旨みも強くないと、ただなんとなく田舎っぽい味の、
塩っぱくて・・・という物になってしまうのです。
おせちは
日本料理と言っても和食屋さんで普段出てくる料理でもないので
通常の料理とはまた違った物です。
おせちのような料理は一つ一つの伝統を守っていかないと、というものでしょう。
黒豆などもいくら「甘くない方が良い」と言っても余りに薄くても良くないですし、
伊達巻だって塩味だけの物は美味しくないでしょう。
このような「この材料は、こういう加工の歴史やルールがある」という料理は
そのまま守って行くのが良いと思っています。
「フレンチだけのおせち」、のような物はちょっと無理がある気がします。
肉を焼いた物をおせちに、と言っても、
それはやはり、焼いた時に食べたほうが美味しいですしね。
今年から新たに連載を始めさせていただきましたが、
お読み頂き、ありがとうございました。
皆様、良いお年をお迎えください。
次週の年明けは1週お休みをいただき、「デザートについて」をお送りします。
▲ページ上部へ