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名人のこだわり「2つのワイングラス」

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名人のこだわり
「2つのワイングラス」

お客様によっては
「ジビエはクセの強い肉」というイメージをお持ちの方も多く
避けられる方もいます。
実際には、しっかりした処理をすれば決してそうではありません。
でなければ、昔から現在に至るまで
これだけの食文化として残ってはいないでしょう。

とはいっても、実際にしっかりとした処理がなされずに
臭みのある物を召し上がった経験がある為に
悪い印象がおありなのでしょう。
その事自体、決して間違いでは無いと思います。

ですが、
「若いブルゴーニュの赤を飲んで美味しくなかった。
ワインって美味しくないね」と言われたら、
「ちょっとそれは待ってほしいかな」と言いたくなるような
気持ちと似ています。

料理や食材で苦手なものなどがあった時には
それをもって、全てがそういう物なのだ、とは決めてしまわず
色々と試していただきたい。

以前お話した「料理名について」の内容とも関わりますが、
「キジのテリーヌ」です、といった時に
以前にその料理を食べた方が、
反射的に「その料理は苦手」となってしまう。
料理名をつける事にはそういった弊害もあります。

佐島の伊勢海老とトリュフ
佐島の伊勢海老とトリュフ


先日、ある所から新たにキャビアを仕入れました。
すると、「キャビア」特有の匂いが全然しないんです。
今まで扱ってきた中でもここまで匂いが無かった事はありません。

考えてみると
筋子の鮮度の良い物は、イクラ臭くはありません。
「そういう事かな?」と訊ねてみると
やはりその生産者は相当、鮮度に気を使っているとの事。

キャビアに関しても
たまたまそういう物を口にしたので、本来こういう物だと分かりましたがそうでは無い物だけを食べていれば
「キャビアとはこういう物だ」と思い込んでしまいます。

食べ物の好みを話している時に
それぞれに、例えば「ウニ」や「鹿肉」を「好き」「苦手」と
話しているとします。
実際にはお互いに全く違う物を食べているのに
「同じ物」として比べてしまうと、
話が平行線になってしまうのは仕方がない事です。

シェフとお客の間でも、厳密に共有ができない部分があるんです。

料理と言うのは、実は食べた人にしか分かりません。

例えば絵画などであれば、
作品を鑑賞する人も作者も同じ物を鑑賞する事ができますが、
料理に関しては、お客様に出した物と全く同じ物を食べる事は
出来ません。

この食材でこのような調理で、と出しても
作った料理人にだって、最終的にその味はわからないんです。
その人の食べ方などでこちらが感じているだけで、
食べた本人が全てなんです。

シェフとお客さんでもそうなのですから、
ここは料理の厄介な所でもあります。

ワインでもそういう事があります。
不思議な事に同じテーブルで同じワインを一緒に飲んでいても
味が違う事があるんです。
グラスを持つ指先への力の入れ方や体温、などの個人差でしょうか。

一緒に飲んでいて自分が美味しいと思っているワインを「好きじゃない」という人がいても、それは本当にそうなのかもしれません。
実は同じ味の物を飲んでいなかったりする。

機会があって、グラスを交換できる相手がいる時には
試してみると面白いかもしれません。

次回はもう少しジビエについて詳しくお話ししたいと思います。



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