改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第二十八話 「第10章 灼熱の思いは野に消えて 2」
女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概
カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの
残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した
数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、
偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。
ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。
メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
ファイは手足を縄で縛られ、地下室に裸で放置されている。ファイは痛みで朦朧としながら田舎の家族を思い出していた。
両親とおばあちゃんと二人の弟と一人の妹の七人家族だった。
毎日、一番下の弟を背中におぶって家の手伝いをした。家には小さな田んぼと畑があった。朝は田んぼに行って蛙をとる。取った蛙を家族で食べる。畑にはライチとマンゴが植えられていた。収穫の時は家族そろって畑に出た。夕日が落ちるまで働いた。ライチのみずみずしい実を弟の口に入れてやった。
その日の夕食はいつものカレースープとなまずの塩づけ、焼きおにぎりの他に炙った鶏肉があった。炙った鶏肉はごちそうだ。
母親が今晩はたくさん食べなと鶏肉を炙ってくれた。母親はあまり食べなかった。
夕食が終わると、父親が昼間バンコクから訪れた男からもらった甘い餅菓子を子供達に分けてくれた。父親は男からもらったウイスキーを飲み出した。
ファイは昼間のその男が好きになれなかった。父親にじっとしていろと言われたので我慢したが、身体のあちこちを触った。恐さと恥ずかしさで泣き出しそうになった。
酔った父親が小さな声で話し始めた。
「ファイ、明日からバンコクで働いてくれ。お前が働かないと家族が生きていけない・・・・・・。昼間の男が明日の朝には迎えに来る」
「お父さん、何で金持ちと貧乏な人がいるの?」ファイが突然聞いた。
しばらく考えて父親が言った。
「お父さんには学問はないが・・・・・・小さい頃にお寺のお坊様に同じことを聞いた。お坊様は言った、磨くためだそうだ。
人もルビーも磨いて綺麗な光を放つようになるのだそうだ。人の魂はそうすることが必要なのだそうだ。金持ちに生まれた次ぎは貧乏に生まれる。貧乏に生まれて次ぎは金持ちに生まれる。
そうして人の心が磨かれると言っていた。
お坊様は言った。どんなに辛い時でもやさしさを忘れない。嘘はつかない。人のものは盗まない。人に悲しい思いをさせないで生きなさいってね。
ファイ、お父さんはお前に何もしてあげられなかったよね、でもお父さんはいつも、いつもファイの笑顔が大好きだ」
母親は下を向いていた。涙が床に落ちていった。
ファイはおいしそうに餅菓子を食べている弟を見つめていた。
ファイは知っていた。誰がフォンの財布を盗んだのか。フォンがトイレに行った後に、シーアが部屋に入って行ったのを見た。
主人がそれを知ったら大変なことになる。恐らく鉈でシーアの片方の手首を切り落とすだろう。以前に盗んだのが見つかって鉈で手を切られた子供を見たことがある。
・・・・・・あんな幼い子にそんなことはさせられない。
どうして良いか分からずファイは泣いた。
それから三日間、盗んだと言わないファイに対して主人とフォンのリンチが続いた。ファイの自慢の黒髪は引きぬかれ、前歯が折られた。
地下室から断続的に悲鳴が聞こえている。
シーアは悩んだ。悲鳴が聞こえる度に自分がやったと、名乗りでようかと何度も思った。
・・・・・・もう遅い。遅すぎる。おいらがやったとわかったら、もっとひどい目にあうだろう。ファイに対するお仕置きは3日間も続いているからもう終わりだろう。おねえちゃんに、今晩、そっと地下室に行って食べ物とお水を持っていこう。
夜11時を回った。シーアは主人が酔っ払って寝てしまったのを確認し、地下室にそっと降りて行った。
扉には鍵がかかっていなかった。
扉を開けると手足を縛られたファイが転がされている。
「ファイ・・・・・」シーアは絶句した。
シーアはファイの変り果てた姿を見て涙を流した。
急いで縄を解いてファイを起こし、もってきた水を飲ました。
ファイは水をおいしそうに飲むとシーアを見つめ、
「わたしの弟そっくり」
シーアの頭をなでて笑った。切れた唇が痛々しかった。
「シーア、明日お誕生日でしょう。あたしの部屋の洋服が入っているケースの上を見てごらん。ミニチュアカーのプラモデルを買っておいたよ。あなたを見ていると弟を思い出して懐かしくて、悲しくても元気になれたわ。早く行きなさい、見られたらあなたもひどい目にあうわ。さあ、早く行きなさい」
翌朝、シーアの誕生日の朝、ファイは縄で首をくくって死んでいた。
泰田ゆうじ プロフィール 元タイ王国駐在員 著作 スラム街の少女 等 東京都新宿区生まれ |
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