私と柔道、そしてフランス… ー 第六十五話 制度品と一般品の違いー
早大柔道部OB
フランス在住
- 第六十五話 制度品と一般品の違い -
私が入社する以前、全方位型流通政策を施行しようとするロレアルに対して、コーセーは自社の流通政策と根本的に異なるとして大反対しました。しかし、ロレアルは譲らず、それまでの両社の良好な協力関係にもかかわらず、コーセーはロレアルに対して強い不信感を持つようになっていたのです。
(株)ロレコス設立の際、ロレアルは出資比率対等を主張しましたが、すっかりやる気をなくしたコーセーは10%のみの出資に留どめました。さらに、5月27日に予定している“(株)ロレコス設立記念カクテルパーティー”にコーセー社員は一切出席しない、という厳しい態度を打ち出してきていました。
ここまでこじれてしまった状況をより分かりやすく説明するために、この後、しばしば登場する用語「制度品」/「一般品」について説明しておきます:
*制度品 : メーカーと直接取引契約のある小売店で販売される化粧品。メーカーから系列の販売会社や支店を通して小売店に納入され、メーカーが派遣する美容部員によって、カウンセリング販売(対面販売) されます。コーナー制度、美容部員制度、消費者組織(例えば、資生堂は花椿会、コーセーはカトレア会、カネボウはベル会という消費者組織をもっています)などを駆使して主要メーカーはしのぎを削ります。これはメーカーが小売店をコントロールできる流通システムで、メーカー共通の敵である廉売・乱売を防ぐために大きな役目を果たします。
*一般品 : 問屋や代理店を通して、不特定の小売店で販売される化粧品。これらの小売店は、問屋/代理店と販売契約を結ぶことはあっても、メーカーとの取引契約はないので、メーカーのコントロールは効きません。その結果、廉売・乱売の危険性が憂慮されます。
コーセーとしては、ロレアルを前述のように業務用製品のリーダーに育て上げた自信と誇りから、パブリック部門の製品も自社の化粧品と同様に「制度品」として、取引契約店に流す方針でした。
ところが、全方位流通を目論むロレアルにとっては、当時のコーセーが持つ約8000店の取引店数は余りにも少なすぎるとして、「制度品ルート」に加え、「一般品ルート」での流通を主張します。
しかし、コーセーの大反対に遭い、止むに止まれず、アメリカの男性化粧品“メンネン(Mennen)”の日本に於ける総代理店“山陽スコット(株)(注1)”にアプローチ。コーセーには相談せず、山陽スコットと代理店契約を結んでしまいます。
山陽スコット(以後、スコット)は全国66社の問屋と取引があり、ロレアル側はしてやったりと手放しで喜び、スコットも世界に名だたるロレアルの商材を得て、期待は高まるばかり。
そんな状況の中で、“(株)ロレコス”は発足したのです。
ロレコス社長には、ロレアル/コーセー両社から絶大な信頼を得ているモーリス・アルナルが就任しました。彼は1963年のロレアル/コーセー技術提携時に技術者として来日し、その後、前号で紹介した業務用製品部門のマーケティングを担当する合弁会社“コスメフランス(株)”のマネージャーとして活躍していました。
こうして、ロレコスは実際の業務はヴィリエ専務と彼を支える女性秘書一名の体制で発足し、5月初旬に私が加わりました。
発売商品は、ヘアスプレー(エルネット)、艶出し(エプソン・ブリル)、ヘアカラー(レシタル)の3種類で、雑誌広告・テレビCMも始まっていました。
私に与えられた最初の仕事は、コーセーとの関係改善でした。先述したように、私の入社後間もない5月27日に予定されている“(株)ロレコス設立記念カクテルパーティ”に、コーセーは自社の社員を一人も参加させないと言って不満を表明していましたから、先ずはそのパーティへの参加を促すことから始まりました。
(注1)
山陽スコット(株):山陽パルプと米国キンバリー・クラーク社の対等出資合弁会社。取扱商品は、「スコッティ・ティシュー(ティッシュ・ペーパー)」、「スコット・トイレット・ティシュー(トイレット・ぺーパー)」でした。
次回は、「第六十六話 問題多発!」です。
【安 本 總 一】 現在 |
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