改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第ニ十六話 「第9章 悪魔の日曜日 5」
女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
⇒ Amazonにて好評販売中。
https://www.amazon.co.jp/dp/4815014124?tag=myisbn-22
梗概
カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの
残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した
数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、
偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。
ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。
メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
シーアは2階の駐車場へ走った。エレベーターを使わずシーアは二階の駐車場へ階段を駆け下りた。ちょっと遅れてクンとプーが付いて走った。
駐車場に停めてある黒のワンボックスカーが見えた。
(車までもうすぐだ・・・・・・)
シーアがホッとしたとその時、後ろで悲鳴があがった。
突然、クンがしゃがみこんで額に手を当てた。
額から血が滲んでいる。
クンの額とプンを掴まえていた手に、立て続けに親指大の大きさの石が当たったのだ。
プンはクンの手を振り解くと、後から走ってきた俺に走ってきた。
プンは夢中で走った。
「おじちゃーん」プンが泣いて一生懸命に走って来た。俺はしっかりとプンを抱きとめた。
ナカジマがパチンコから放った石がシーアの額に命中した。シーアは、膝をつきながら、拳銃をナカジマに向けて2発続けて打った。
ビッグベアとニンが駐車所に待機していて、シーアを取り押さえた。
「シーア、おまえだったのか」ビッグベアは、はき捨てるように言った。
「・・・・・・」シーアは、以前にビッグベアに失神するほど痛めつけられている。
ビッグベアはシーアに近づき、襟を掴み持ち上げた。シーアの足は宙に浮き、足をばたつかせている。ビッグベアはシーアを抱え上げコンクリートの床に思いきり叩きつけた。床に転がったシーアの胸をビッグベアの足が踏みつける。あばら骨が何本かきしみ折れた。
俺は、倒れているナカジマに走り寄った。
シャツが真っ赤な血で染まっている。
「すまない。俺のせいで」
「お前のせいではない。俺はもう長くはない。死ぬ前に伝えておきたいことがある」
「救急車を呼ぶ。今は、しゃべるな」
携帯を取り出し、アップンに電話した。
「救急車って、どうやって呼ぶの・・・」
アップンがすぐに近くの私立病院に電話をして、救急車を手配してくれた。
俺は、ナカジマを抱きかかえ階下に降り救急車を待った。
「ひいー、お願いだ、止めてくれ・・・・・・ノックは生きている、ほんとだ」
シーアの言った信じられない言葉にビッグベアは呆然とした。
ビッグベアは娘のノックは既に死んでいると半分は諦めていた。
(もう5年は経つ、ノックはほんとに生きているのか・・・・・・)目から涙があふれた。
「俺を刑務所に入れたら、二度と娘と会えないと思えよ。俺は絶対に口を割らない。俺をこのまま逃がしてくれたら、娘のノックの居場所を教えてやる」
ビッグベアがニンを見た。
(・・・・・・ノックに関しては警察にもしゃべれない何か大きな秘密があるのだろう)
「放してあげて」
シーアの目を見ながらゆっくりと言い聞かせるように言った。
「いいわ、嘘をついたら、必ずあなたをつきとめるわ。その時は、木村もビッグベアも容赦はしないわよ」
「わかったよ、必ず連絡する。クン、ついて来い」
シーアは折れたあばら骨のあたりを押さえながら車に乗り込んだ。クンが助手席に座ると車は急発進して駐車場を出て行った。
思ったより早く来た救急車にナカジマと一緒に乗った。
止血の応急処理をしている奴が俺の顔を見て、小さく顔を横に振った。
ナカジマの出血が止まらないようだ。
「もう長くはない。さっき言った通り、死ぬ前にはなしておきたいことがある」
「しっかりしてください。すぐに病院で手当てをすればなおりますよ」
「いいから聞いてくれ。俺は18で徴兵された。支那戦線を転々としながら、最後にビルマ戦線にたどり着き、インパール作戦に従事した。インパール作戦は補給を軽視した司令官の杜撰な作戦で、戦友は次々と飢えとマラリアで死んでいった。撤退する道は、本当に白骨街道だった。俺たちはサロウィン川を渡り、タイに入った。そこに小さな村があった。飢えに苦しむ俺たちは家に押し入り、食料を貪った。俺が押し入った家にはまだ若い、夫婦らしき男と女がいた。俺はそいつらを家の外に追い出し、芋を貪った。そこに、上官が夫婦を連れて入ってきた。上官は俺に殺せと命じた。上官の命令は絶対だ。俺はその夫婦を銃剣で刺し殺した・・・・・・その時、納屋から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。藁に隠されるようにして、赤ん坊が泣いていたんだ。俺は泣き叫ぶ赤ん坊を抱いた。上官は赤ん坊も殺せと命じた。俺はできなかった。上官は俺の手から赤ん坊を奪いとり、首をへし折ろうとした。咄嗟に俺は上官の胸を銃剣で突いた。
俺は逃亡し、数日後、終戦を迎えた。村に戻ると、まだ赤ん坊が生きていた。奇跡だと思った。日本に帰っても、上官を殺した罪で、軍法会議で死刑になると思った。俺は赤ん坊を連れて、バンコクで暮らし始めた」
「その赤ん坊というのは・・・・・・」
「スカンヤだ」
「・・・・・・スカンヤさんは、そのことを知っているのですか」
「誰にもはなしたことはない。死ぬ前に誰かに伝えておきたかったんだ。
頼みがある。」
「なんです」
「俺が死んだら、分骨して、半分をスラム街の港に、半分を・・・・・・故郷、広島の相生橋から太田川に流してくれ・・・・・・それがいい」
ナカジマは静かに目を閉じ、もう二度と開かなかった。
それから一週間が過ぎた。
ニンは、カーオとプーを警察に自首させた。 カノムは何も知らず手伝わされた被害者としてすぐに釈放され、これからは本当におでん屋マイを手伝うと言って一緒に働いている。プーも事件解決を手助けしたことで恐らく情状酌量されて刑務所には入らないだろう。しかしカーオの刑務所は長くなるだろう。
「プンちゃん、スカンヤさんやビッグベアとか、皆を呼んできてよ。ナカジマさんとさよならするよ」
涙のせいか、はるか彼方の水平線に半分顔を埋めている真っ赤な夕日がにじんで見える。
夕日が作る茜色の道がそこまで来ている。
ナカジマさんの遺灰を海にまいた。
沈む真っ赤な夕日を見ながら、俺は歌った。
プンもニンもスラムの皆も一緒に歌った。
ぎん ぎん ぎら ぎら
夕日が沈む
ぎん ぎん ぎら ぎら
日が沈む
まっかかっか
空の雲
みんなのお顔もまっかっか
ぎん ぎん ぎら ぎら
日が沈む
泰田ゆうじ プロフィール 元タイ王国駐在員 著作 スラム街の少女 等 東京都新宿区生まれ |
▲ページ上部へ