改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第二十話 「第8章 臓器売買シンジケート」
女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概
カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの
残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した
数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、
偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。
ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。
メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
第8章 臓器売買シンジケート
モータサイは猛スピードで走り、ノックを連れ去った車に追いついた後、そっとワゴンのあとを追った。
ワゴン車は20分近く走りチャオプラヤー河沿いの倉庫の前に車を止めた。3人の男はぐったりしているノックを倉庫に運んだ。
「おいらここで見張っているから、ビッグベアのおじさんに場所教えて」
モータサイは猛スピードで走り去った。
シーアは仲間の男に、
「ぐったりしているけど大丈夫か?生きたままの腎臓って言われているんだぞ」
「ギャー、ギャー、騒ぐから腹殴っただけですよ」
「電話したら、あと10分くらいで着くそうだ。手足を縛ってその箱に入れておけ」
シーアは仲間の男に命じるとタバコを取り出し、火を点けた。
(こいつらに2万バーツずつを払って、残りは46万バーツか。数年は遊べるな・・・・・・シーアの顔に笑みが浮かんでいる)
(まだ誰も倉庫から出て来ていないな。ビッグベアのおじさん、早く来て・・・・・・)カイはドキドキして倉庫を見張っていた。
ものすごくゆっくりと時間が流れているようにカイには感じられたが、モータサイの男は時速100キロ以上で飛ばし、20分もしないうちに、ビッグベアを連れてきた。
ビッグベアは着くなり、カイが指さす倉庫に阿修羅のような形相で走った。
倉庫のドアは中から鍵がかけられていた。
鍵がかけられた木製のドアをビッグベアは蹴破って入った。
1メーター90センチ以上はある阿修羅のような形相をした巨漢がドアを蹴破ってなだれ込んだ。
シーア達はいきなり倉庫のドアを壊し、入って来た巨漢の形相を見て、思わず後ずさりをした。
「ノックはどこだ」ビッグベアが怒鳴る。
「何のことだ、知らねえな」
シーアの目の合図で2人がビッグベアにいきなり飛びかかった。
ビッグベアは2人を両手で引っつかみ、同時に2人を持ち上げて床に叩きつけた。叩きつけた男の一人の胸をビッグベアの30センチ以上はある靴が踏みつけバキッとあばら骨が折れる音が響いた。恐怖で引きつるもう一人の男の顔に容赦なくビッグベアの蹴りが飛んだ。男の歯が飛び、鼻が曲がり男はそのまま血の混じった泡を吹き気絶した。
阿修羅の形相をしたビッグベアは再びうなるように怒鳴った。
「おい、俺の子供をどこにやった」
シーアは恐怖で後ずさりながら、
「し、知らねえよ」
ビッグべアは首領と思われるシーアを壁まで追い詰めた。
シーアの胸倉をつかんだ時に腹にシーアのナイフが突き立てられ、腹に焼けた鉄の棒を押し付けられたような激痛が走った。ビッグベアは、左手で腹のナイフを掴みとると右手でシーアを壁に叩きつけた。シーアは、車にぶつかったような激しい衝撃を受けた。
シーアはしゃがみこみ、壁の下に転がっていた鉄パイプを拾い、左手で出血を押さえながらシーアを取り押さえようとしたビッグベアの顔に鉄パイプを叩きつけた。頭からも出血したビッグベアが顔中血だらけになりながら、シーアに襲いかかり胸元を掴み容赦なく床に叩きつけた。
シーアの胸倉を掴み何度も持ち上げては床に叩きつけた。
「やめておじちゃん、死んじゃうよ」
カイがビッグベアのシャツを泣きながら引っ張った。すでにシーアは気絶している。モータサイの男に連れられてきた警官がビッグベアを3人がかりで止めた。
倉庫内を警官達と一緒に皆でノックを探した。ビッグベアは大声でノックの名を呼びながら、泣きながら必死で探したがノックを発見することはできなかった。
倉庫には裏口があり、外に出ると、すぐそこに船着き場があった。表からは誰も出ていない。ノックは裏口から船で運ばれたのであろう。
ビッグベアは最愛の娘ノックを失った。
ビッグベアはすぐに病院で手当てを受けた。
強靭な身体である。けがはたいしたことはなかった。しかし、その翌日からビッグベアは、家から出て来なかった。娘を失った悲しみがビッグベアのすべての力を奪った。
毎日、悲しみの淵で動けずにうずくまっているビッグベアであった。
深い悲しみで立ちあがれないビッグベアの家にプンは毎日、行った。
「おじちゃん、ご飯持って来たよ。お水も持ってきたよ」
プンが来た時だけは、ビッグベアは笑う。プンの小さな手を大切そうにビッグべアの大きな手が包み込む。
プンはビッグベアに言った。
「おじちゃん、ノックは生きているよ。昨日、夢に出て来たよ。おじちゃんに元気になって早くあたしを探してって言っているよ」
プンの不思議な力を知っているビッグベアは、プンを抱き抱え左肩に乗せ、
「何かおいしいものを二人で食べに行こうか」
「うん」
泰田ゆうじ プロフィール 元タイ王国駐在員 著作 スラム街の少女 等 東京都新宿区生まれ |
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