改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第十五話 「第6章 カーオの復讐 3」
女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概
カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの
残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した
数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、
偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。
ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。
メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
ニンのアパートには週一回のペースで泊まるようになっていた。たいていは土曜日の晩だ。セプテンバークラブが暇な日曜日は、ニンは仕事を休む。前の晩の土曜日には、ニンはクラブに木村を呼び、早帰りをして木村とディスコに行ったり、カラオケをしたりして遊ぶ。日曜日の午後には車を飛ばしてホアヒンの娘のところに行き、月曜日には帰って来る。
木村の携帯にニンから電話がかかってきた。
「こんどの土曜日にホアヒンの娘のところに行くことになっちゃった。ごめんね」
「えー日曜日じゃあないの?なにかあったの?」
「おばあちゃんが風邪ひいたみたい。帰ってきたら、また電話するね」
「へーい」木村は不機嫌に答えて切った。
「所長、デートがながれたのかな?お茶入れてきます」
話を盗み聞きしていたアップンがルンルンで言った。
「これって茶柱でしたっけ。縁起いいのですよね、二本も立っていますよ、あはは」
アップンのやけに嬉しそうな言い方に反撃開始。
「アップン、スカートのチャックが少し開いているぞ、トイレに行ったあとちゃんと上げとけよ」いじわるそうに言った。
「・・・・・・」赤くなってそっとスカートのジッパーを上げた。
空いてしまった土曜日の夜、最近顔を出していない大和の小ママの顔が見たくなり行くと、小ママのミィアオが迎えてくれた。
「おっ、木村さん、久しぶりやね。紹介するわ、プラー(魚)ちゃんよ」
「サワディー カー」(コンバンワ)カウンターの向こうからプラーが挨拶する。
カウンターのプラーを一目見ると、
「今日はカウンターで飲むよ」
「そうきたか、このスケベ日本人。どうぞ」
(相変わらず口が悪いな、まぁプラーは日本語がわからないだろうから俺のことスケベなどと思わないだろう)
「ナン ニー ダーイ マイ?」(ここ座っていい?)
「ダーイ カー」(もちろん)
タイ語で話したので、プラーはホットしたのかにっこり微笑む。
(これまで会った女性の中でこんなにかわいらしい女性を見たことがない。澄んだ大きな目、小さめの形の良い鼻、ぽっちゃりとした唇から形よく並んだ白い歯、髪はポニーテイルだ)
柄にもなく気取って、マティーニを頼んだ。プラーが振るシェーカーと一緒に形の良い胸が揺れる。カクテルグラスにマティーニが注がれる。ブルーの照明がマティーニに映り、その向こうでプラーがこちらを向いている。
「アライ カー」(なーに)
じっと見ていた俺にプラーが声を出して笑いながら言った。
「マイ ミー アライ、マージャーク ティ ナイ クラップ?」
(なんでもないよ。どこから来たの?)
カウンターで1時間、プラーと話した。プラーの出身地はバンコクから車で1時間ほど離れたアユタヤだそうだ。アユタヤに病気のおばあちゃんと両親と小学生の弟がいるそうだ。年は20歳で誕生日は11月8日のさそり座だそうだ。
「プラー、プルングニー ミー ワーング マイ クラップ?」
(プラーちゃん、明日は暇ある?)
「ミー カー」(ありますよ)
(明日、ニンがそのうち一緒に行こうと言っていたランシットの遊園地にプラーちゃんと行こうかな、予行演習だ・・・・・・)
明日は日曜日だ。待ち合わせの約束をして上機嫌で大和を出た。
毎週土曜の夜はニンと深夜まで遊んでいたので時間を持て余し、大和を出てクロントイスラム街のマイの屋台にも立ち寄った。
「木村さんちょうどよかった。紹介するわね、今日から手伝ってくれるプー(蟹)さん、二十歳よ、若くて綺麗でしょう」
日頃の行いが良いと、こんなにいいことが続くのかと感激した。さきほどのプラーとは勝るとも劣らないほどの美人である。
プーは始めて会った俺を思い詰めるように見つめている。
(俺ってもてるのかな・・・・・・どうだ、アップン、茶柱は嘘じゃなかったよ・・・・・・)二本立っていた茶柱を思いだした。
「どうしたの?プーちゃん、そんなに木村さんを見つめて」マイが不思議そうな顔をする。
「あっ、すいません。2年前に事故で死んだ兄にあまりにもよく似ていたのでつい」
(おいおい、縁起悪いな。でも好感を持たれているみたいだ。嫁にするならこんな子かな。プーの涼しげな切れ長の目は木村の好みだ、頬がちょっとふっくらとしていて愛嬌がある。どうしようこんなにもてて、でもこの涼しげな目、誰かに似ているような気がするな・・・・・・まぁいいか)
俺は先ほどプラーにした質問と同じ質問をする。プーは河向こうに住んでいて、さそり座の11月7日生まれで二十歳だそうだ。
(今日は、さそり座、20歳に縁があるな・・・・・・二本立った茶柱に感謝、感謝)
1時間ほどして木村が去ると、プーはちょっと買い物をしてくると言ってその場を離れた。
路地裏に入るとプーは携帯電話を取り出し、電話をした。
「クン、例の日本人が来たよ。大丈夫、言われたことはしっかりやるよ・・・・・・えーッ、そんなこと出来ないよ。そんな約束していないよ」
電話を切ったプーの手は震えていた。
翌日の日曜日は快晴。11月のこの時期は雨季も終わり、バンコクでは過ごしやすい季節。と言っても30度近くはある。
今日はプラモートが休みなので自分で車を運転した。タニヤ通りにあるコンビニ店の前でプラーをピックアップしてスリオン通りの高速入口から高速にのった。隣に座っているプラーをチラッと盗み見た。
緊張している顔もいける。緊張をちょっとほぐしてあげようと陽気に話しかけた。
「ねえ、プラー、クイズ出すよ、答え考えてみて」3年もタイにいると下らないジョークも言えるようになる。
「顔が2つある魚はなーんだ?」(顔は、タイ語でナーである)
「なーに?何だろう?うーん・・・・・・」
顔をかしげて考えるプラーをかわいいなと思った。
「ヒントは、英語で2つはなんていうの?」
「ツー・・・・・・ふふ、わかったよ、ツーナーでしょう」
プラーは親しげに俺の肩をたたいた。
これで一気に和んだ雰囲気になり、二人の距離が接近したと思った。バンコクは日曜日にはめったに交通渋滞しない。金持ちの子供の学校へのマイカー送迎が無いからだ。およそ三十分で目的の遊園地に到着した。
遊園地のゲート前の駐車場に車を駐車しようと空いているスペースを探した。空いているスペースにきれいに車を止め、満足して降りた。プラーも一緒に降りて寄り添うようにして入場口まで歩いた。窓口では入場券を買う列ができていてタイ人大人50バーツ、外人大人200バーツと窓口に書いてある。
「タイ人2枚で買うね。私が買ってくる」
しっかり者のプラーが笑って言った。100バーツをプラーに渡し、列から離れて駐車場の傍の灰皿置場に行き、煙草に火を点けた。ふと駐車場に止まっている車をみるとそこに見慣れた車が止まっている。
(うん、黒のシビック、ナンバーも一緒だ。なんで?ニンはホアヒンにいるはずだよな?・・・・・・)車のナンバーを何度も確認した。
(そうか娘を連れて来たのかな、言ってくれたら一緒に来たのに。いや無理かな、プラーちゃんと4人でなんてありえないか、それよりまずいな、まあいいか何とかなるか・・・・・・)
プラーが入口でにこにこ笑って手招きしている。遊園地の中に入るとプラーがそっと手をつないできた。
(俺は違う意味でドキドキだ。ニンと会わないように・・・・・・神に祈ろう)
遊園地は、動物園とジェットコースターなどの遊戯場からなる。なんといっても、ここで一番人気があるのは室内が人口雪で敷き詰められたミニスキー場だ。タイではもちろん雪が降らないからここでしか雪は見られない。
プラーとは話がはずみ、特におでん屋マイの話をすると関心をしてマイやプンに関して色々な質問が返ってくる。
プラーは次の日曜日にプンをここに連れて来てあげようと言ってくれた。
ミニスキー場は混んでいて入場制限があり、入口から行列ができていて最後尾にプラーと並んだ。
何気なく前を見た。
(ゲッ、ニンだ・・・・・・)
5~6メートル先にニンが日本人の男に寄り添っていた。相当に親密な関係であることが一目でわかる。あんなに甘えた顔のニンを見るのは初めてである。俺はプラーの手を引いて急ぎ足でその場を去った。
「どうしたの?」
「小さい時から俺は並ぶってだめなのだ。何故か気持ち悪くなっちゃう」
ひときわ汗をかいている俺をみてプラーも納得した。
(あの男は誰だ?親しそうだった。明日、ニンに会って、ここで会ったことを言って誰だか確認しようか。いや、ニンはホアヒンに行くと俺に嘘をついて男と会っている。聞かれたくないに決まっている。どうしよう?・・・・・・)
「どうしたの?調子悪そうね、帰ろうか?」
「いや、大丈夫、大丈夫」
「わたしはあなたと一緒にいられればいいの、どこでもいいのよ。涼しいところ行ってやすみましょうか」
(涼しいところ行って休むって・・・・・・まさかいきなり)
泰田ゆうじ プロフィール 元タイ王国駐在員 著作 スラム街の少女 等 東京都新宿区生まれ |
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