改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第十話 「第4章 タニヤの才女ニン 2」
女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概
カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの
残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した
数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、
偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。
ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。
メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
カーオは、チャオプラヤー河を渡ったトンブリ地区のアパートに
傷だらけで帰った。
「ひどくやられちまったな、金も無くなっちまったし。
くそ、あの日本人の野郎、ぶっ殺してやる・・・・・・」
鏡に映った自分の顔に話しかけた。
仲間達から最初に払った5百バーツのほかに、
もう5百バーツを要求された。カーオにとっては、
給料の半分に近い大変な出費である。
1年前にマイ(繭)と出会った時のことを思い出した。
いつも、客に出すフルーツをタラード(市場)で買ってから大和に出勤する。
その日もフルーツを買ってから店のビルまで来た。
ホステス募集の張紙を見ているマイがいた。ジーンズにゴムゾウリ、
襟元が日に焼けた白いシャツを着ていてお世辞にもお洒落とはいえない。
が、真っ白な襟筋、 大きな瞳の愛らしい顔立ちが印象的だった。
即座にこの女は、タニヤで人気になるだろう、稼げるかもと思った。
「張紙のお店は、小ママが日本語上手で、お金持ちのお客さんが多いよ。
ホステスもみんな、やさしいし、働きやすいよ。僕もそこで働いています」
声をかけられ、マイが振り向くと、やさしそうな微笑を浮かべたカーオがいた。
「こういうお店で働いたことないのですけど」
「大丈夫、大丈夫。一緒においで」
カーオは先にエレベーターに向かい、マイは遅れまいとカーオの後を追った。
マイは始めてタニヤのカラオケ店に入った。
カーオはカウンターに入り、飲み物を作ってマイに勧めた。
「外、暑かったね。テンモウパン(砕いた氷にスイカジュースが入っている)だよ」
マイは出されたテンモウパンを飲みながら見回し、
「ありがとう。カラオケ店って、こんな感じなの」
マイは、やさしそうで気のきくカーオに親しみを感じた。
大和のママは、めったに顔を出さない。小ママのミィアオ(猫)に
店のすべてを任せている。
小ママのミィアオは、マイを一目で気に入って、
「こっちにおいでかわいい娘ちゃん、明日から働いてもらうわよ」
店の奥の小部屋に連れて行き、そこにある制服のサイズ合わせをした。
「制服の貸与料は一日50バーツ、あなたの給料から引くわ。
お店のシステムを説明するわね」
マイは翌日から勤め始めた。
勤め始めてから数日後、客と一緒にボトルのお酒をかなり飲んだ。
ボトルを追加すると、マイの給料があがる。
お金を稼ぎたいので無理してお酒を飲み、かなり酔った。
客が帰るので立ってみると腰から砕けた。
カーオがカウンターから氷の入った水を持って来て
マイの肩をそっと撫で、やさしく言った。
「無理しちゃだめだよ。これを飲んで、奥で休んでいていいよ」
店が終わり、おぼつかない足取りで帰るマイをあとから追ってきた
カーオがそっと肩を抱いた。
「送っていくよ。クロントイだったね」
二人はタニヤ通りに面したシーロム通りに出ると、タクシーに乗り込んだ。
タクシーの中でマイは優しく肩を抱かれ、カーオの肩に頭を寄せた。
長い間、男性の優しさから遠ざかっていた。カーオはマイの唇に唇を重ね、
自分の舌をからませた。無抵抗のマイの様子で、落としたと確信をした。
タクシーは、クロントイとは逆方向にあるトンブリ地区のカーオのアパートに向かった。
(くそ、マイにシャブ(ヘロイン)をぶちこんでいればよかった。
ぶち込んでいれば、俺から離れなかったろうに・・・・・・。
スラムには屈強な男達がいる。
もう、マイには近づけないな・・・・・・)
メコンウィスキーをグラスになみなみと注ぎ、グラスをあおった。
何杯飲んだのだろうか。意識が遠くなる中で悪魔のささやきを聞き、
ふと不敵な笑いを浮かべた。
「よーし、これならマイは来るだろう。戻って来たら今度こそ、
シャブづけにして俺から逃げないようにしてやる」
カーオは高笑いをして、グラスをドアに投げつけた。
ニンはカオサンの近くの路上に車を止め、「一緒に来て」と言って車を降り、
俺の手をとり路地裏の深夜まで開いている花専門のタラード(市場)に連れて行った。
タイでは、スーパーが無くても大小のタラード(市場)が町のいたるところにある。
スーパーのようなタラードには肉や魚の生鮮食品が所狭しと、
並び、庶民はここで安くて新鮮な生鮮食品を買う。
ニンは、新鮮な切花がどうしても欲しかった。
先月、日本に帰った日本人の恋人との始めての時もそうだった。
3年前と同じように、ニンは同じところで赤と白の切花を買った。
ニンは縁起をかつぐ敬虔な仏教徒である。
日本に帰る2日前、彼はニンのアパートで最後の夜を過ごした。
翌朝、彼は寝ているニンを起こさないで朝早く去って行った。
テーブルの上には銀行の通帳とキャッシュカードとメモが置かれていた。
メモには、ニンの誕生日の0827(8月27日)の暗証番号と
「君と君の愛する子」へと書かれていた。
通帳を開くと残高が30万バーツ、3年間毎月1万バーツ積んである。
(もう日本人を好きになるのは止めよう、
好きになっても日本に帰ってしまうから。
彼の思いやりが嬉しく自然と涙が浮かんできた)
日本に帰った彼には、自分が何故、タニヤで勤めるようになったのか、
その経緯を話すと一緒に泣いてくれた。
ニンは、バンコク市内の有名進学校である王立バンコク女学院に通っていた。
ひときわ美人のニンは、男性から声をかけられることが多かった。
でも彼女には大好きな男性がいる。週2回の家庭教師の大学生であった。
彼はイサーン地方の貧しい家の出身で、
働きながら最難関のチェラロン大学に通っている。
彼のやさしさと、ときおり見せる淋しげな横顔が好きだった。
二人はお互いに惹かれるようになり、何時の間にかニンの部屋で
愛し合うようになっていった。
高校3年生の時、子供ができてしまいどうしたらいいのかわからず、
彼に妊娠を伝えた。
普段の彼はいつでもいろいろなことをやさしく教えてくれていたのに、
その時の彼はニンに1万バーツを黙って渡した。
「どういうこと。話し合いもなしで」
いらだち、彼を問い詰めたら、
「子供を堕せよ」 とぶっきらぼうに言った。
ニンもどうしていいのかわからなかった。
仏教徒のニンはただひたすら自分の子供を殺せないと思うだけで
何も決めないまま、どんどん日は過ぎて行った。
ベッドで休んでいたら突然、彼はニンの腹を軽く蹴って乱暴に大声で言った。
「どうするんだよ」
ニンは泣きながらおなかをかばい叫んだ。
「出て行って、もう二度と会いたくない」
それから彼は家庭教師に来なくなり、住んでいるアパートも代えてしまった。
ニンは彼と会いたくて、チェラロン大学の門に毎日行ったが、
大学も辞めてしまったのか、いくら待っても現れなかった。
毎日一人で苦しみ泣いた。 それでもお腹に芽生えた命は、
幼いニンに守られて大きくなっていった。
父親は、オーストラリアに国費留学し、大学で教鞭をふるっている。
厳格な父親が妊娠を知ったら・・・・・・ニンは悩んだ。
彼女の苦しみとは裏腹にお腹で赤ちゃんが元気に動きだした。
小さい時からかわいがってくれている母系の祖母がホアヒンに住んでいた。
ホアヒンはバンコクから車で3時間ほど離れたリゾート地で祖母は祖父の建てた
別荘に2人の家政婦と一緒に住んでいた。
ニンは何もかも捨て、荷物を小さな鞄ひとつにまとめ、
ホアヒンの祖母のところに一人で旅立った。
祖母は何も言わずにニンを迎えてくれた。
4か月後、祖母に見守られてホアヒンの病院で元気な女の子を産んだ。
病室に運ばれた子をニンは抱いた。
抱かれて小さな命が必死で乳首を吸っている。
小さな指が乳房を掴む。
小さな指がちゃんと5本ある。
自分の今の気持ちが嬉しいのか、悲しいのかわからないが子供の顔を見ていると
自然と頬に涙が伝わった。
病室の窓からどこまでも深い青空が見えた。
ニンはこの子を独力で育てようと決意した。
2年後、子供を祖母に預け、娘のためにタニヤで働くことにした。
昼間、日本語学校で勉強した。小学校・中学校・高校を通して
首席であった聡明なニンはすぐに日本語をマスターした。
彼女は、大切な日本人の接待にはかかせない存在となり、
あっという間にタニヤの一流クラブ、セプテンバークラブで
指名1位の人気ホステスとなった。
ニンは、切花を買うと木村を促し車に戻った。
アパートはサトーン通りからすぐの十二階建ての洒落たマンションである。
マンションの1階の入口に守衛が立っていた。
ニンに手を引かれている俺は、後ろを振り返り、
ニンに気づかれないようにニコニコと守衛に手を振った。
7階708号室、俺を中に入れると、
ニンは鍵とチェーンをかけ、玄関においてあるお香に火をつけた。
ワンルームだが50平米以上はあるのだろうか、広々としている。
ニンはソファーに座るように言い、冷蔵庫からシャンペンを出し、
洒落た細いシャンペングラスに注いだ。
彼女は、一口飲むと切花を花瓶に活け、バスルームに向かった。
バスルームから俺を呼ぶ声が・・・・・・。
注がれたシャンペンを一気に飲み干し、もう一杯一気に飲んで、
誰もいないベッドの青いシーツにVサインをしてバスルームに走った。
カーオは二日酔いにめげず、早起きをした。冷たいシャワーを浴び、
二日酔いと打撲症で痛められた体を冷ました。
「もうすぐソンクラーンだ、暑いわけだ」
ソンクラーンとは、4月(タイの正月)の水掛け祭りで、
タイで最も暑い4月の中旬に各地で盛大なお祭りとなる。
町のいたるところで知っている人も知らない人も水をかけて遊ぶ。
みんな童心に返って水を掛け合う。おもちゃ屋では強烈な水鉄砲が良く売れる。
「しばらくはここに戻れないな」
身の回りのものを鞄につめて外に出た。
アパートからタクシーで5分ほどの所にもうひとつの住家がある。
アパートに着き、2階の奥のドアをたたく。
ドアが開かれ、ショートカットのまだ幼さが残る顔立ちの女性が出てきた。
「どうしたの?そんなに顔を腫らして」
「やくざの日本人にからまれた」
部屋に入ると彼女は抱きついてきた。
何も言わずに、抱きかかえ、ベッドまで運んでいった。
ベッドに乱暴に放り出した。
衣服を乱暴にはがし、頬を打ち、強引に彼女に浸入した。
クン(えび)は抵抗をしながら、そこは濡れていた。
犯されるように扱われるのが好きなクンだ
カーオは、自分は女のひもではなく、鵜飼と思っている。
テレビで日本の鵜飼のドキュメンタリーを見てこれだと思った。
鵜がタニヤで働く女であり、鵜がくわえる魚がお金だ。
誰でも鵜を操れるわけではないと自負している。
それぞれの鵜の性格に合わせて飼わなければならない。
3匹の鵜を飼っている。
失いかけている極上の鵜を取り戻さなければ自分の生活に響く。
2本の煙草に火を点け、1本をクンに渡した。
「お願いがあるんだ」
「なーに?」
「そんなに難しいことじゃあないよ。クンはかわいいから声をかけたら、
たいていの男は付いて来るよね。日本人の男に声をかけて連れて来て欲しい。
それと、マイを知っているだろ。マイを・・・・・・」
「いいよ。いつするの?」
「マイのほうは急ぐ。今日にでもお願いしたいのだけど」
「いいよ。あんたのお願い、断れないよ」
カーオは、やさしく抱いて唇を吸った。
起きた瞬間、どこにいるのかわからなかった。
(げっ、そうだ昨日はニンちゃんの部屋に泊まっちゃったんだ)
ベッドの横に座ってこちらを見ているニンと目が合った。
「ねぇ、お腹に棒で殴られた痕があるよ。どうしたの?」 ニンが聞いた。
俺は、スラム街での一部始終を話した。頭の弱い俺と違って、
聡明なニンはしばらく考えたあと、
「あまり簡単に考えないほうがいいよ。あなたは狙われるわね。
それと、マイさんが危ないわ。
その男は一度手に入れたものを決して離そうとしないわよ」
「どうしたらいい?」
「あなたは、狙われていると思って警戒してね。
マイさんに直ぐにガードを付けて、先手を打たないといけないわ。
後手に回ると厄介ね。すぐにカーオを探しましょう。
ちゃんとした人、たとえば警察とか軍の偉い人をたてて
話をつけないとすまないわよ。彼らはそういう人に弱いの」
「へー」能天気な俺は、シーリアスな顔をしたニンに間抜けな返事をした。
(俺は腕には自信があるし用心棒のプラモートがいる。マイの方も、
スラム内では屈強な男達に守られているし、
ニンが言うほど心配しなくても大丈夫だろう)
「今晩でもマイのところに行って、
当分の間、スラム街から出ないように言ってくるよ」
しかし、ニンの心配したとおりすでにカーオの魔の手は伸びていた。
マイはプンを連れてスラム街の公立小学校に向かった。
プンの一年生の入学手続きをとるためだ。
プンに、一度に二つの大きな喜びが訪れた。
お母さんが戻ってきたこと、
お母さんとこうして手を繋ぎ小学校に行けることだ。
スラム内の小学校で入学手続きを済ませると、
担任の先生から、今日の授業に出るように勧められた。
「先生、わたし・・・・・・なにも持っていないよ、鉛筆もノートも」
「今日は用意をしてあげますよ」女性の先生はやさしく言ってくれた。
「あとで迎えに来るね。明日からはみんなと一緒に行き帰りしてね」
マイは嬉しそうにしているプンに言った。
「お昼に校門に迎えに来るね」マイは、プンを残して学校を去った。
マイは、学校の帰りに、プンのカバンやノートなどを買おうと思った。
(財布の中身は乏しいが何とかなるわ。スラム街にある屋台の女主人から、
今晩から手伝いに来るように言われたし・・・・・・)
頼まれた屋台の仕込みを買うためにクロントイのタラード(市場)に向かった。
マイは、タラードの入口付近で後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにクンがいた。
「ねえ、マイ。お店を辞めたんだってね。
小ママがお給料を清算してお金を持って来ているよ。
小ママは、スラム街の中に入りたくないって、スラム街の外で待っているよ。
あたし、呼んで来いって言われて来たの」
カーオがいるお店にはもう行けない。
お給料は諦めようかなと思っていたマイは助かったと思った。
クンの後について行った。
スラム街を出るとクンは、
「ほらあそこの車の中で待っているよ」
30メートル先に黒の乗用車が止まっている。
車の中は窓ガラスに目隠しシールが張られていて見えなかった。
「小ママは後ろにいるよ」クンが言った。
後ろのドアをあけると、クンが背中を強く押し、無理に後部座席に押し込んだ。
そこにはカーオがいた。
「カーオ・・・・・・」マイは絶句した。
体中が震えて声が出なかった。
カーオは、マイを押さえつけながら言った。
「騒ぐと絞め殺すぞ。クン、ガムテープで口と手足をぐるぐる巻きにしろ」
クンは言われた通り、マイをガムテープで縛った。
マイが動けなくなるとカーオは運転席に戻り、
興奮で震える手で運転を始めた。顔には不気味な笑顔が浮かんでいる。
後部座席ではクンはマイの髪を乱暴に掴み、引っ張りあげた。
「ねえ、カーオ。シャブ漬けにする前に、マイの顔をかみそりで切らせてよ。
あそこもライターで焼かせて」
きれいな顔をしたマイにカーオがここ一年もの間、
心を寄せていたことに、強い嫉妬を覚えていた。
俺はニンのアパートにプラモートを呼んだ。遅めの事務所への出勤だ。
事務所に向かう途中、プラモートにニンのアドバイスを話すと、
プラモートは、元軍人なので自分の知っている士官に仲立ちを
頼んでくれると言った。
事務所についたら早速、電話をかけてくれるそうだ。
士官にお願いするために金が必要らしい。
この国はたいていのことは金で済ませられる。
事務所では相変わらずアップンが木村に代わり、事務をこなしていた。
アップンが作った資料で日本への連絡などをしていると
あっという間に昼になった。
いつもアップンはお弁当を作ってきて事務所で昼食をとる倹約家だ。
俺も少しは倹約しなきゃと、アップンの質素なお弁当を見て思った。
「昼飯食って来るよ。たまには、弁当なしで来な。昼飯ご馳走するよ」
「たまじゃあなくて、毎日でもいいですか?」
「嫁になってくれたらね」
「・・・・・・」アップンが赤い顔して何も言わない。
最近は、俺のほうが一枚上だ。日本語なら負けないぜ。
「行って来るよ」
昼飯から戻り、アップンが作成した今朝のタイ新聞の日本語要約に
目を通していると携帯電話が鳴った。
携帯の着信表示は公衆電話を表示している。
「サワディー クラップ」(こんにちは)
「サワディー カー」(こんにちは)
不安そうな幼いプンの声だ。
「彼女からなんだけど、アップンちょっと代わってくれ」
怪訝そうな顔をしてアップンは携帯を受け取った。
しばらく話を聞いた後、笑いながら、
「所長、やっぱり幼児愛好者だったんですね」
アップンが意地悪そうに言った。
(・・・・・・仕返しをされたか)
「いいから、なんだって?」
「お母さんが待ち合わせの場所に来ないので、
一人で家に帰ったけど家にもお母さんがいないって、心配そうに言っています」
「すぐに行くって言ってくれ」
しまった、ニンの心配が当たっていなければいいが・・・・・・
泰田ゆうじ プロフィール 元タイ王国駐在員 著作 スラム街の少女 等 東京都新宿区生まれ |
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