改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第五話「第2章 母親マイとの出会い」
女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概
カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの
残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した
数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、
偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。
ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。
メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
第2章 母親マイとの出会い
翌朝8時、プラモートに連れられ、スラム街内の寺に行った。
服装は派手でなければなんでも良いらしい。
午後から、出社できるようスーツで参加した。
彩夏は黒のワンピースで、すでに寺で待っていた。
小さな棺を乗せた荷車に綱を繋ぎ、僧侶を先頭に葬儀の参列者が
綱を引きながら、歩いて来る。
スラムの人々の列の先頭に、スカンヤ、ナカジマがいる。
スカンヤがプンを抱きしめて、列に加え、綱を下げる。
スカンヤとナカジマが俺たちに気が付いて頭を下げて、
彩夏にタイ語で、
「一緒にカイを見送ってやってください」
彩夏は俺とプラモートにも綱を引くように促した。
煙突のついた火葬炉は小さな寺のような形をしていた。
炉までは10段程の会談があり、階段の下で、参列者が
献花を持っている。
炉の前は15畳の広さがあり、鉄製台車の上に棺桶が置かれ、
炉の扉が開いている。
俺たちは、前の参列者を真似て、献花をお盆に載せ、
棺桶を撫で、階段を下りた。
やがて、棺桶が炉に運ばれ、扉が閉まる。
スカンヤ、ナカジマ、プンが階段を下りてきて、俺たちのそばに立った。
炉に火が入ると同時に、花火が打ち上げられ、爆竹が鳴らされる。
驚いた俺と彩夏に、スカンヤがタイ語で
「花火を打ち上げると、死者の魂が悪例に邪魔されずに天国まで
上がって行くことができるのです」
プンが泣き始めると、スカンヤがやさしく、
「泣かないで、プン。カイは生まれ変わるのだから、
来世はもっと幸せになれるように、祈ってあげなさい」
プンは涙を拭いて
「お兄ちゃん、また会おうね」
参列者たちが寺から出てきた。
彩夏に
「骨はひろわないの?」
「明日、拾うのです。でも、タイの人たちは霊を敬うことが供養で、
魂の離れた遺骨には特別なことはしない。ただの抜け殻だと思っているから」
「お墓は?」
「輪廻転生を信じているから、お墓もあまり作らないし、墓参りの習慣もないの。
海や山に散骨する人も多いの」
彩夏はスカンヤに、
「カイのお骨はどうするのですか」
「明日チャオプラヤー川に流します」
俺は、彩夏の通訳を聞きながら振り返り、煙突から出る煙を眺めた。
彩夏が急いで、
「スカンヤさんが振り返ったらダメ。霊がとり憑くって言っています」
参列した人々が、スカンヤとナカジマに挨拶し、
それぞれのバラック小屋に戻って行き、俺たちもプンの家に寄った。
スカンヤが日本語で
「ありがとう」と言い、俺たちに頭を下げた。
ナカジマは黙って煙草を咥え、火を付けた。
プンがビーズでできた手作りのブローチを俺に見せ、
「ママが作ってくれたの」
彩夏が通訳して、
「きれいだね」と言った。
プンは嬉しそうに、はにかんだ。
スカンヤの喋るタイ語を彩夏が通訳すると、
「この子の母親は働きに出たまま行方がわからない。
父親はこの子が赤ん坊の頃、病気で亡くなったのです」
俺は、煙草を取り出し、じっと黙っているナカジマを見た。
彩夏がナカジマに
「日本人なのですか」
と、確認したが無言のままだ。
スカンヤが代わりにタイ語で話したのを彩夏が通訳した。
「継父は元日本兵で、戦争中、両親を日本兵に殺され、
道端で泣いていた私を拾って、育ててくれたのです」
「日本には一度も帰ってないのですか」
彩夏が日本語でナカジマに質問したが黙ったまま。
同じ質問をタイ語でするとナカジマは頷いた。
彩夏はタイ語で、
「終戦後、日本捕虜が解放された時に、このクロントイで一時待機させて、
クロントイの人たちが食べ物を与えてくれたって聞いたことがありますけれど」
ナカジマはタイ語で、
「昔のことはもう忘れたよ」そう言って煙草を揉み消した。
俺はプンに
「また、来るよ」
彩夏が通訳すると、プンは満面の笑みで頷いた。
俺は事務所のまだ慣れない自分の席に座り、
まず、日本からのメール、ファックスを確認した。
現地の新聞、テレビニュースの情報などの要約は、
秘書のアップンがまとめて要領よくレポートしてくれる。
なんせ憂鬱と辞書を見ないで書ける秘書なのだ。
秘書のアップンと今週のスケジュールの確認をした。
明日は親会社の幹部と得意先がバンコクに来る。木村はホテル、
レストラン等のアポイントの確認をアップンに頼んだ。
明日のお客を空港でピックアップ後、先ずホテルに案内してチェックインし、
そのあと観光案内をしてから夕食をとり、
タニヤのカラオケバーに案内をすることにした。
明日のアテンドを復習し、アップンが取りまとめた今日の現地のレポートに
目を通してから、そっと、タイ語の本を取り出して夕方までお勉強を始めた。
本のタイトルは、バンコク夜遊びタイ語集と書かれている。
「いくつ?」「名前は?」「出身は?」「独身?」
「きれいだね」「今度ご飯食べようか?」
秘書のアップンに聞こえないように小さな声で熱心に反復練習を始めたが、
「所長、きれいだねって発音を間違っていますよ。語尾を下げないで、
上げて下さい。その発音では不幸だねって意味になります」
と嬉しそうにアップンに言われた。
(・・・・・・耳のいいやつだ。聞こえていたのか)
思いきりの愛想笑いをアップンにした。
日本からタイに進出した神田でグランプリをとった日乃屋のカツカレーを
食べて、明晩、案内するタニヤに出動した。
泰田ゆうじ プロフィール 元タイ王国駐在員 著作 スラム街の少女 等 東京都新宿区生まれ |
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