2015/07/28
第19話 ODA大国 (その1)
ODA(official development assistance)とは、通常日本語で「政府開発援助」と訳している。政府が国民の税金を用いて途上国の発展を支援することである。最近は政府の援助活動の中に一部民間資金を活用する場合もあるので、「開発協力」という用語を使うようにもなっているらしい。
ODAについては、すでにカンボジアの現場に即して具体的にお話した(第13話参照)。ここでは、第13話と一部重複するが、日本のODAについて全体的に話してみたい。日本のODAは他国に見られない多くの特色を持っているので、そういうことを中心にお話する。
私は、国内外でODA活動に直接携わった経験から、日本が援助の量と質の両面で大国であることを誇りに思っている。
日本は世界の中でもトップクラスの援助大国
日本のODAは、戦後の復興・成長が始まる前の1954年に開始されたので、今年は61年目にあたる。日本自身の経済発展が進んだ1970年代後半から、何度か中期計画を作ってODAの量的拡大に努め、その間に援助の理念や政策を精緻なものして、質的な面でも向上を遂げた。1989年に援助の量で世界一になり、90年代の10年間は文字通り「トップドナー」の地位を堅持した。
あとで述べるように、財政難から1997年をピークとして援助予算を削減してきたが、その間に他の先進国は援助量を増やしたので、今は世界で5位の援助国に留まっている。ともあれ、世界は援助の規模やその内容から見て、日本をまだ大国だと見ている。
【日本からの援助に喜ぶぶ村人たち】
政治的野心のない、世界的規模の支援活動を展開
日本は、援助をするにあたり、純粋に途上国の経済社会の発展を目的にしている。援助によって、その国や国民が貧困状態から抜け出ることになれば、当該国や周辺地域が安定し平和にも繋がると考えている。そのためのODAであるから、世界中の途上国190カ国・地域におしなべて援助活動を展開している。
米国も援助大国だが、例えば中東和平のためにこの地域にある自国の友好国を重点的に援助する傾向がある。中国も最近は急速に援助を増やしているが、資源を持つ途上国に重点援助をし、自国の資源獲得に役立てている。日本はまじめで誠実であるということができる。
援助の目的は途上国の自助努力を後押しすること
我が国の援助の基本哲学は「自助努力支援」である。途上国自身が自分で発展を担うことができるようになるために援助するのである。
道で物乞いをする貧しい人がいたとしよう。可哀想だと思ってお金を恵んであげても、その人は自立できないばかりか、ずっと援助を必要とするであろう。だからその人にお金を渡す代わりに、職業訓練をして自立して生活できるようにすることが重要である。
日本は、「人造りは国造り」という考えのもとに、単に援助物資を供与するだけでなく、人材育成を重点政策としている。日本の援助実施を主として担うのが国際協力機構(JICA)という大きな独立行政法人だ。
JICAはこれまで、約13万6千名の日本人専門家や4万7千名のボランティアを途上国に派遣し、世界中の途上国から約54万人の研修員を日本に受け入れてきた。日本人の専門家や技術者が直接途上国の技術者と一緒になって技術を伝え、自立を支援するのである。
支援は農林水産業、鉱工業、土木、教育、医療、法制度整備、情報(ITC)などあらゆる分野に及び、日本人を通じて「顔の見える」援助を行っている。
【プノンペン中心部のトンレサップ河の水上生活者】
多彩な援助手段をもっている
日本には、無償援助(病院、上下水道施設などを建設する資金や技術を提供したり、災害の際の緊急援助物資の提供や途上国で活動するNGOへの資金提供などもある)、有償援助(通常「円借款」というが、超低金利で融資をして、道路、港湾、通信設備などの途上国のインフラを整備する事業など)、技術協力(人材育成・技術移転など)、国際機関への拠出(世界保健機構(WHO),ユネスコなど途上国支援に携わる国際機関の資金を支援)など幅広い援助手段がある。これらを組み合わせながら、相手国に最もふさわしい支援を提供するように努めている。
有償援助ではなく無償援助を中心に活用する先進国や逆に融資を中心に援助する国もあるが、多くの手段を相当の規模で保持している国は少ないのである。
相手国の意向を尊重して相談しながら援助する
カンボジアのところ(第13話)で述べたが、相手国政府の担当者や技術者と相談しながら、相手の要望に合った援助をするのは日本が最も優れていると言える。
先進援助国には、専門家やコンサルタントが処方箋を書いてプロジェクトを実施するようなやり方も少なくないが、日本はプロジェクト形成のための調査から処方箋作成、実施段階まで相手国の担当者と一緒に相談し議論し協働して、そのプロセスを通じて途上国担当者の能力向上を図る方式を用いている。
第13話で話した民法の法制度整備もこの方式で成功した好例だ。「日本的アプローチ」ともいえ、相手国から高く評価されているだけでなく、第三者である他の援助国からも敬意を受けている。
インフラ整備を通じて持続的経済成長を目指す
あたりまえだが、道路や橋や港湾施設などインフラを整備するのは相当お金がかかる。だから、援助をする先進国でもインフラ整備までも手掛ける国はあまり多くはない。カンボジアのシハヌーク前国王は、日本が他の国があまりやってくれないインフラ整備をしてくれることに繰り返し感謝してくれた。
日本がインフラ整備に力を入れるのは、自らの経験が背景にある。
どの国であれ、道路、港湾、電力、通信施設などが整ってくると、企業など民間の経済活動が活発になって発展が加速する。
我が国は、戦後破壊された街や道路などを徐々に復興させていったが、とくに東京オリンピックが開かれた1964年以前の数年間で、高速道路や新幹線を張り巡らし都市に地下鉄をつくっていったが、これがその後の飛躍的高度成長に繋がった。
当時、新幹線や高速道路などの建設には世銀など海外の援助を受けた。日本のODAは 初期の段階から、相当規模の無償資金、有償資金を活用してタイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピンなど東南アジア諸国のインフラ整備を支援した。そして、これがこれらの国の経済発展を促していった。1970年代~80年代の東南アジアの経済発展には日本のODAが重要な寄与をした。
【小川 郷太郎】 現在 |