2014/01/25
第12話 韓国で気が付いたこと
(その1) 相手の立場に立って考えてみる
日本と韓国。いま、ますます難しい関係にある。
韓国人はいつも、「日本人は歴史を正しく認識していない」と非難し続けてきている。私の友人を含め多くの日本人は、「どうして韓国人はいつまでも謝れというのか。何度も謝ったではないか。いい加減してしてほしい。」と反発する。
最近は、竹島問題、従軍慰安婦問題、植民地統治時代の強制徴用への補償問題などもあって益々雰囲気が険悪化している。日韓間でいつもこうした問題で揉めているので、欧米やアジアの国々も注目する。そして従軍慰安婦の問題などを知って、「へえ、日本てそんなことをしたの」と我が国に疑念を投げかける人たちも出てくる。
朴大統領は日韓首脳会議を拒否するだけでなく第三国首脳にも日本の悪口を言うこともあるようだ。それが、日本人の嫌韓感情を一層刺激する。
日本では週刊誌をはじめメディアも競って反韓感情を高める記事を流すようになった。最近ようやく、韓国の一部に首脳会談を拒否し続けるのは賢明ではないとの意見も出てきたようだったが、昨年末の安倍総理の靖国神社参拝によって反日感情はまた強まり、日韓関係は最悪の状態になって来た。
困ったものである。終戦に伴い日本の植民地統治が終わってから69年たった。来年は日本と韓国が国交を正常化してから50年目になる。なぜ、いつまでも揉めるのだろうか。
私は、双方に問題があると思う。韓国の方には、昔から家庭や学校で培われた反日教育の伝統が残っているし、マスコミも何かにつけて日本批判を強める、そういう「国民感情」を見て政治指導者がそれにおもねるような言動をする。それがまた国民の反日感情を後押しする。この悪循環のプロセスにおける問題は、日本の戦後の平和的な国際活動や韓国への経済協力、あるいは今日の日本人一般の優しい心とか日常的な関心事、生活のレベルや質、多様な文化の実態がさほど知られていないことだ。
相手国側の問題はさておき、日本側の最大の問題と私が思っているのは、国民全体として植民地時代の統治の実態やそれが韓国人(北朝鮮人に対しても同様だが)に及ぼした根深い影響についての認識が欠けていることだと思う。学校でもあまり詳しく教えられてこなかったことにも一因がある。
韓国での3年余りは実に充実した生活を送ったが、とりわけ多くの人々と楽しくお付き合いさせていただいた。その体験から私は、韓国人は心の奥で、「自分たちの民族と文化が日本人により抹殺された」と深く思っていることを知った。
どういうことかと言うと、日本が植民地統治の政策として実施した「皇民化政策」が誇り高い民族意識を持つ韓国人(朝鮮人)の心に癒しがたい傷跡を残したのである。つまり、韓国併合の過程で日本が警察権や外交権を奪い、さらに全国の学校に日本人教員を送り、日本語で教育を進め、朝鮮人を「皇国の臣民」として同化させようとした。
最後には「創始改名」を行って朝鮮人の姓名を日本人の名前に変えさせたことは、家系を大切にしている民族に深い屈辱を強いることになってしまったのである。
韓国内を案内して下さったご夫妻と
ところが、日本人一般はある程度の歴史的事実を知ってはいるものの、韓国人の心に与えた深い影響のことにはあまり気付いていないようだ。植民地時代に日本がしたことについては歴代の陛下や首相が何度もお詫びの言葉を述べてきた。しかし、ときどき日本の政治家や知識人の一部が、植民地時代に日本は鉄道を敷いたり教育を向上させるなど良いこともしたなどと、公言することがある。
それを聞くと韓国人の心は一層傷つけられ、日本の指導者のお詫びはうわべだけの言葉ではないかと思ってしまう。自分たちが誇りにする母国語や大事にしている姓名を変えさせられた屈辱を結局日本人は分かってくれていないと思うからだ。
韓国で多くの人々とお付き合いし、何度も「過去の歴史問題」を議論したりしてみると、相手の気持ちもよくわかるようになるものだ。
韓国で学んだ最も重要なことは、相手の立場に自分自身の身を置いて考えてみることの必要性だ。
韓国の若い人たちとの懇談
国際社会は弱肉強食のような側面がある。それも事実だが、どんな政治体制の国でも、あるいは強い国に戦争を仕掛けられたり侵略された国でも、そこに住む国民は皆人間の心を持っている。圧政者や侵入者を恨み、親族や友人が殺されると悲しむのは人間としてあまりにも当然だ。
もし、全く仮定の問題として、日本が戦争に負けた際、アメリカではない別の近隣国に占領された場合を考えてみよう。日本人が好きでないその国に力で統治され、その国の言葉で教育も受け、嫌いな指導者を信奉するよう強制され、挙句の果てに日本人としての姓名をその国式の名前に変えさせられたら、どう感じるだろうか。恨んでも恨みきれないかもしれない。
世界の経済の動きや日本周辺の安全保障環境をみると、日韓両国が協力してやるべきことが多く、それができれば双方に大きな利益をもたららす。繰り返される日韓の葛藤から脱却するために日本側がやるべきことは、時間はかかろうが、国民全体として日韓近代史をあらためて見つめ直し、相手の立場にも身を置きながら謙虚に考えることだ。それができれば日本としての振る舞いもおのずと決まってくるはずである。
ちょっと難しい話になってしまったので、次回は実際の韓国について感想を述べたい。
【小川 郷太郎】 現在 |