2017/01/11
第27話 人口減少・高齢化社会への妙薬は?
いまの日本の社会にとって最大の課題は、人口減少・高齢化にどう有効に対応するかということであろう。世界でも最先端を行く日本の人口減少や高齢化は、日本の国としての活力を相当失わしめつつあるからだ。
安倍内閣は保育・託児所の増設、産休・育休の充実化、子ども手当の拡充などを推進し、さらに働き方改革にも踏み込んでいる。女性が仕事と結婚・育児を両立できるようになれば、生き甲斐も増して人口減少にも歯止めをかけられるばかりでなく、女性の労働市場への参入増加によって人手不足解消や税収増にも寄与する。
安倍政権の対策は方向性としては良いと思うが、私が総理大臣になったらもっと大胆にその方向を進めたい。働き方改革は容易ではなかろうが、現在の安倍政権においてもその兆候が見られるように、総理大臣が繰り返し信念と政策を示せば、社会は少しずつその方向に動いて行くものである。
首相が国民に向かって繰り返し「ラッパを吹く」ことが必要だ。総理大臣として自らテレビや国会、講演などで話すが、有識者も総動員して国民の説得にあたることが重要だ。
具体的政策としては、デンマーク社会などの経験にもヒントを得ながら、例えば、次のようなことを実施したい。
税制改革の推進
世界でも群を抜いて高い日本国の借金比率は、国債や財政・金融政策に対する市場の信任を失わせかねない危機的状況にある。しかし、10%への消費増税は、景気への悪影響を考慮してまた延期された。
私はそれに異を唱えるものではないが、出来るだけ早期に増税を実行する必要がある。10%でも財政赤字解消や追加的な社会保障政策実施には不十分であることは明らかであり、すでに10%超の消費税の必要性も説かれている。
民意が強く反対する増税は実施困難ではあるが、増税と社会福祉・財政赤字改善の中期的な展望を国民に懇切に繰り返し説明することが不可欠だ。国民がそれを理解できるようになれば増税を受入れることができる。
所得の約半分が税金でとられ、消費税(付加価値税)が25%のデンマークでは、社会保障が充実している結果、国民の満足度が極めて高い。
ある自治体で、福祉サービスが低下したときにそれを改善させるために増税せよという声が一部にあったと聞いたことがある。徴税者と納税者の間に信頼感があるからだ。我が国の現状は、政府と国民の間にそうした信頼感が醸成されていない。
その一因に、これまでの政権が議論は延々と続けるが明快な展望を示せずに年月を費やしたことがあると思う。政権が安定している現在のような時期に作業を加速化したい。
消費税増税に伴う税収増の一部を職業訓練の拡充や多様化に充てる。解雇を容易にし、労働者個人の希望や適性に沿った転職・再就職を支援し、労働市場の柔軟性強化に資する。非正規労働者の減少にも役立つことも強調したい。
税制改革として、例えば2世代、3世代が一緒に住める住居建設を大胆に推進してはどうか。小さな子を持つ母親が自身の親に子供を預けて働く例が多い。親が至近距離にいることが重要なので、それを税制面から支援する。
また、都市にある大型マンションなどには、育児所・託児所、保育園、さらには介護施設などの新増設を促進する税制も活用したい。そこには保育士や介護士が必要になるが、後述するように、外国人保育士等の雇用も推進して不足を早急に解決する。2世代、3世代が共同して生活すれば、祖父母による孫の世話、子による親の介護の両面で対応を容易にする。
日本では伝統的な家族観があって非嫡出子への社会的対応は遅れている。日本ではシングルマザーが苦闘しているが、フランスやデンマークなどでは事実婚や離婚後の親の子育ては法律的、社会的に不利にならない。それが出生率向上にも貢献しているのも事実である。それぞれの親の事情もあろうし、生まれた子供に責任があるわけでもない。
離婚や事実婚を促進する結果になることは慎重に回避しながらも、非嫡出子を含めた人道的な子育て支援や多子化を促進する対策を検討すべきである。
まだまだ少子化対策に工夫を凝らす余地はある筈だ。知識人からだけでなく、公募で国民的な知恵を出してもらう。
さらなる生き方、働き方の改革:男子の家事・育児参画
働き方改革は安倍政権の主導によって徐々に民間企業等に浸透し始めている。企業がテレワークなどを通じた在宅勤務を許容したり、育児や介護のための休暇を支援するようにもなりつつある。リクルート社では、男性の育児休暇取得を必須化したと聞く。
女性が結婚し、仕事と子育てを両立させることができる環境をつくるには様々な施策が考えられるが、とりわけ大事なのは男子の家事・育児参画である。子供手当の増額などより遥かに重要である。言うまでもなく、生まれて間もない幼児の世話はとりわけ大変である。母親でなければできないことは多々あるが、母親だけに任せて父親が職場で仕事をしていては母親が十分役割を果たせないだけでなく、離職も余儀なくされかねない。だから、父親は育児だけなく家事への従事も必要になる。
男性も含めた育児休暇などについては法律は出来たものの、日本の男性の取得率や取得期間は、意味をなさないほど低く短い。幼少の子供を複数持つ場合、男子も含め年単位で育児休暇を取ることが必要だ。
これを可能にするには、長期育児休暇制度などを推進する企業等に対する財政支援も必要になろうが、企業・職場の自助努力として、幹部が仕事の仕方をゼロから見直したうえで抜本的な合理化、生産性改善策をとることが有益だ。
いくつかの国における勤務形態は日本よりはるかに合理的で生産性が高い。日本では仕事の様々な局面に過剰な数の人間がかかわりすぎる傾向がある。経団連のような組織が、各国の仕事の仕方に関する調査団を派遣して研究してみてはどうか。
「シニア版ベビーシッター」ともいうべき構想はどうだろうか。働く親の支援のため、市町村や地区の行政が地域に在住する退職者やボランティアを動員・組織化して、幼稚園児や小学校児童を放課後から親の帰宅する時間まで世話をする仕組みを全国的に展開してみたい。
経験豊富なシニア層が、近所の子供たちの勉強を見てやったり、一緒に遊んだり、経験を話すことができれば、シニア層のやりがい、子供たちの学び、働く親たちへの支援、地域社会の絆強化などにとって役に立つことになるはずだ。行政や学校等が積極的に公民館、公園、学校などの場所や道具・機材を提供して応援する。
外国人労働者の大幅導入
我が国では、他国に比べ、外国人に対する暗黙の忌避感や閉鎖性が強いように見える。もう20年ぐらい前だろうか、高齢化社会にともなう介護士や看護師の人手不足に対応するため外国人介護士等の導入が議論されていたころ、こうした問題の複数の担当官庁の幹部と話したことある。私がいくら効用を説いても、彼らは様々な理由を挙げて消極論を展開した。その背景は、勝手に頭の中で想像して「外国人は言葉も文化も違うから分かり合えない」「外国人多数の存在は社会の安定を損ないかねない」などと考えているようだった。
結局条約を結び、フィリピンやインドネシア等から介護人材等を導入することにはなったが、導入数を制限したり、厳しい資格認定試験を設定したりで制限的に運用されている。だから、ますます深刻になる介護人材不足という大きな社会問題解決に目立った進展はないままだ。
私はフィリピンに勤務した際、家で住込みのお手伝いさんたちに随分と世話になった。皆明るく優しくて、お手伝いという仕事に職業意識を持っていた。だから、昼間も夜の外出時も幼い娘二人を安心して任せておけた。娘たちもよくなついた。フィリピンからフランスに転勤した時は、そのうちの一人に一緒に来てもらったが、家事から子供の世話まで一人3役ぐらいの仕事をしっかりしてくれたので非常に助かった。
しっかりした資格を持つフィリピン人看護師も世界で多数働いている。東南アジアの人たちには明るく優しい人が多いので、資格と意志をもっていればたとえ日本語が完璧でなくても、立派に日本で介護や看護の仕事をこなせるのは明らかだ。良いところをあまり見ないで過剰防衛意識や過度の慎重さで考えると、外国人に警戒的になってしまうのではないか。
最近は、都市や地方でよく外国人を見るようになったから、誰でも彼らに気軽に声をかけて見るとよい。言葉が通じない場合があっても臆せず笑顔を向ければ、必ず笑顔が返ってくる。片言でも声をかけて何度か付き合えば、人間としての良さもわかってくるものだ。
私は世界の7つの国に住み、出張などで5つの大陸に旅してみたが、人間はどこでも同じ感情を持っている、多くの人が優しい心や日本に対する強い関心や親近感を持っている、自分が心を開けば必ず相手と親しくなれるなどと感じた。いまでも海外を回りながら、それは間違っていないと思う。
高齢化社会に対応できていない状況は危機的で待ったなしだ。
私が首相になったら、もっと大々的に外国人労働者の導入政策を進めていく。
【小川 郷太郎】 現在 |