2016/12/07
第26話 安倍政権について思うこと
前章では、グローバル化の急速な進展、近隣国の実情、混迷する世界などについて語った。ひとことで言えば、世界が急速に変化している中で日本がずいぶん遅れをとってしまっていることと、最近の世界情勢はますます混迷を深め、どの国にとっても対処が非常に難しくなっているということを言いたかったのである。
世界的に、政治の指導力の重要性は以前にも増して益々大きくなっている。ただ、政治の指導力が重要だと言っても、指導力さえあれば良いというものではない。力があっても、国内外の期待に反してとんでもない政策を実行している例もあるからだ。
日本の政権、世界の政権
「政治の指導力」とは、明確な方針のもとで一貫した政策が実施されることと考えれば、間もなく4年になる第2次安倍政権では政治の指導力はかなり発揮されつつあるように見える。他方、ここ数年間、強権を揮う中国やロシアなどの指導者を除き、政治の指導力発揮は欧米主要国では低下している。これが世界の混迷に拍車をかけている。
日本ではこの四半世紀の間、政治の指導力が著しく欠けていたと言わざるを得ない。実際、私は日本社会の変化のなさを嘆き続け、その背景にある政治の不作為に怒りを感じてきた。全体観、使命感や行動力を欠く政治家たちに大いに失望をした。
特にバブル崩壊後の政治は、政党が重要な政策課題を棚上げにしたまま選挙目当てに互いに足の引っ張り合いを演じてひどいものだった。小泉内閣でやっと政治の指導力が見えてきたが、その後の頻繁な政権交代で、状況は以前にも増して悪くなった。
2012年の第2次安倍政権が成立してからは、ようやく明確に政治の指導力が発揮されるようになり、遅れた日本の社会に様々な改革の試みが始まったことに一抹の安堵を覚えている。
最近の世界を見回すと、アメリカでも政権末期のオバマ大統領への失望感が強いだけでなく、次期大統領候補者であるクリントン氏、トランプ氏のいずれについても米国内外から大きな不安感が表明されている。フィリピンの新しい大統領ドゥテルテ氏についてもその言動がふらついていて、内外からの懸念も強い。国内では強い支持を受けている中国やロシアや北朝鮮の指導者も、その強権的独裁制や軍事力重視傾向が国際社会の大きな懸念材料になっている。欧州主要国であるドイツ、フランス、イギリスの指導者も最近の国内基盤は決して強くない。
そうしてみると、安倍首相は国内的に安定し、一部の近隣国を除いて海外から懸念視されているわけではなく、結構いい線を行っているとも言える。
安倍政権の良いところ、そうでないところ
ここで、私自身の安倍首相に対する感想を披露してみたい。安倍総理は第2次政権成立のあと、目を見張るような力を発揮して「安倍1強」とも言われる政治状況を創り出した。
率直に言って、以前の安倍氏からは想像できないほどの力量を示してきた。「女性が輝く社会」とか「一億総活躍社会」など、少し言葉が先走りして政策が追い付かないように見えるものの、全体観を持ち、政策目標を繰り返し明確に宣明して迅速に行動することが奏功していると言えよう。前政権で失敗したことから学んでいる節も見られる。
私は、政治指導者は信念に基づいた(正しい)政策を繰り返し表明して国民を説得し、「抵抗勢力」とは論争または妥協をしつつ、粘り強く政策目標を達成するべきだと思う。
ちょっと脱線するが、小池東京都知事も明確な政治意志と優れた政策構想力を持ち、目的達成に至るための周到で幅広い根回しをする点が凄いと思う。環境大臣時代に「クールビズ」を定着させた手腕は、その好例である。小池さんは、さらに、政治的「勘」と行動力があり、いざという時は退路を断って「崖から飛び降りる」ことまでするが、並みの政治家にはできないことで、以前からその胆力に高い敬意を表している。
ともかく、第2次政権での安倍さんは、それまでの何代かの首相に見られなかった政治指導力を発揮している。ただ、「指導力を発揮している」と言っても、当然その内容には好感できるものとそうでないものの双方がある。
私が好感している点は、三つほどある。
第一に、これまで歴代の首相が棚上げしてきた国内経済社会の難しい改革課題に取り組み始めたことである。日本人の生き方を変えることにまで踏み込んだ働き方改革、成長策の一環として官民連携でのインフラ輸出や農業の輸出産業化などの農業改革に取り組もうとしていること、延期を余儀なくされているとはいえ消費増税を決定したことなどは、最近の歴代内閣にはなかったことだ。
第二に、日本にとって極めて重要な外交政策に首相自ら大変な意欲と精力を注いでいることで、その積極性によって国際的存在感や影響力を増している。最近中国がきわめて日本に神経質になっていることは、中国の高圧的な海洋進出に対する国際連携による「安倍効果」だと思う。
もうひとつは、政策遂行の迅速性だ。それ以前の政権に比べて行動や政策決定がかなり速い。「安倍1強」の効果ではあるが、そのような状況を創ることも政治の力である。もちろん、これらのそれぞれにうまくいっているところと壁に当たっているところがある。うまくいかないところがあるのは、そもそも政策課題が複雑で達成困難なことや海外との関係のように制御しがたい要因も少なくないので仕方がない。それでも、日本は全体としてこれまでの遅れを取り戻す方向で動き始めつつある。十分ではないが、日本が変わり始めていることは、とてもいいことだ。
安倍政権の政策の中で、私としては好ましくないと思う点もいくつかある。
それらの点は、第27話以下で触れてみたい。
27話以下では、「もし私が首相になったら(・・・なりっこないのでまさに「仮想現実」ではあるが・・・)日本をこういう方向に導きたい」という思いを語ってみる。政策方針を掲げるが、その達成手段を詳細に論じるには紙面の余裕もないので、主として政策の方向を示すにとどめたい。
それを、このメルマガの第1章から書いてきた内容を下敷きにした私のメッセージとしたい。
【小川 郷太郎】 現在 |