2016/03/29
第24話 近隣国の実情と日本
(その2:中国)
これから10年ぐらいの間を見通すと、中国は日本にとって最も難しく、また場合によってはとても怖い国だと思う。強烈な国家の意志で20年、30年を見渡す壮大で明確な長期戦略を描き、国際社会の批判を意に介せず、時には国際法の原則を無視して、自己の戦略実現のために着実に行動している。とくに軍事力を長期間強化し続け、今や軍事的にアメリカと対峙する意図さえ垣間見せている。
自国の経済発展を維持するため世界中から資源獲得を目指して資源を持つ国々となりふり構わず協力関係を構築して行く。時には突如として島などの領有権を主張して他国の反対を無視してそこに軍事基地まで築いてしまう。
尖閣諸島についても中国は「固有の領土」というが、1970年代に国連機関の調査で資源の存在が明らかになってから領有権を主張し始めた。もっと昔に中国自身が発行した地図で尖閣諸島が日本領となっているものもある。
自国にとって大事なことを「核心的利益」と称して、他国が何と言おうと、論理がなくても、追求し実現していく。最近、アメリカが南沙諸島付近に軍艦を送ってけん制しても、やめようとしない。本年2月には他国との領有権争いのある西沙諸島の一部を埋め立ててミサイルを配備した。
【 中国広州珠江の朝 】
中国の攻勢は軍事面に限らない。近年は増大した経済力を背景に「一帯一路」戦略を描いて、海と陸から「シルクロード」を構築して東南アジア、南アジア、中央アジアからヨーロッパにかけて中国の影響力を強化しようとしている。これに並行して、さらにアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、広範なアジア地域においてお金の面で中国主導のインフラ構築に乗り出した。実に見事な戦略構築と実行力と言わざるを得ない。
中国はなぜ近年対外姿勢を強くしているのか。様々な要素があるが、伝統的な中華意識をもつ国民が19世紀には帝国主義諸国に翻弄されて屈辱感を味わった。さらに第2次大戦中は日本の侵略を受けた。この経験をもとに現在の共産党政権が長年富国強兵を計り、近年膨大な経済発展を達成し、それを基盤に軍事力強化を進め、いまや中国主導の国際秩序形成を図ろうとするまでになったのである。
南沙諸島や西沙諸島を軍事化しつつある状況を国際社会がいくら批判しても阻止できない現実を前にして、アメリカの軍事的な抑止行動を期待する声もある。それも必要かもしれない。
しかし、驀進する中国のこれまでの勢いと姿勢が継続され、日本やアメリカにとってこれ以上容認できない局面に達すると、何らかの事態の連鎖で米国及びその同盟国と中国とが一時的にせよ武力で衝突する可能性も排除できない。いったん衝突が起こると、それを止めることが難しいのは、多くの事実が物語っている。そうなれば集団自衛権行使をせざるを得ない日本にも深刻で大きな影響が出かねない。
【 中国・漓江風景 】
簡単ではないが、状況を良く注視しながら武力的衝突の危機を回避し、協調的関係を築くための不断の外交努力が日本にとっても重要である。何ができるか名案がないのが困るのだが、中国自身がそうせざるを得ないと思うように仕向けていくことを考えなければならない。
いくつかの方法をあげてみたい。
まずは、国際社会を広く動員して中国の自省を促す努力がある。中国との経済関係を重視する欧州諸国は、中国の一方的行為の実情をあまり認識しようとしない。欧州諸国と日米間で政策協議を重ね、また、その他アジア、アフリカ、中東、中南諸国に対しても、客観的・冷静で広範な問題提起を行うことが重要だ。
中国は世界的規模で強力な宣伝活動をしており、その中には反日宣伝も含まれている。それに対抗する姿勢ではなく、国際社会全体に中国に関する「冷静で客観的」な事実の広報に心掛けていくことが重要だ。
最近、中国からの訪日観光客が増えていることは日本の現実を知ってもらう上で大きな効果がある。これを引き続き増やす努力が必要だが、もっと知識人、ジャーナリスト学生を含めた広範なレベルでも交流し、知識人等による啓発を通じ大衆レベルでの相互理解を深めることが重要だ。世界における日本や中国の位置づけをお互いに知り合うことも重要だ。
ややおこがましいが、中国知識人の対日認識を強化することは、国家としての中国の成熟度向上にも資するだろう。民主党時代に人的交流や広報の予算がすぐに効果がないとの理由で相当削減された。相互認識の強化には時間がかかるが、こうした費目は巨額ではないので、戦略的見地から継続して増やすべきだ。
日本と中国は、「戦略的互恵関係構築」について合意している。争いが続くとこの点への考慮が薄くなるが、中国指導部にはこのことに対するしっかりした認識がある筈だ。貿易や投資などの実態経済での日中の結びつきは極めて幅広く深いものがあるので、正常な関係を続けることが双方にとって死活的に重要である。だから、日本から積極的に互恵関係強化を呼びかけてその具体策を実行するよう声をかけるべきだ。
例えば、AIIBでの協力関係構築やTTPまたは経済の自由化などで連携強化を呼びかけていくのも一案だ。これまで日本はAIIBに対し消極的姿勢で対応してきたが、今や多くの国が参加して発足しているので協調的姿勢に転じることは中国も歓迎するだろうし、日本にとっても悪いことではない。TTPにも中国は強い関心を持っている。統制的経済体制なのでTTPの参加は難しいであろうが、こちらから協議開始を呼びかけることは可能である。
日本は軍事や経済の規模では負けるが、中国との違いは技術力の高さ、経済制度や体制の洗練度ではるかに勝っており、また、世界中から好感を持たれている日本の精神性や文化も含めて、中国が関心を持つ要素を多く備えている。「歴史」や尖閣諸島問題で争いをなくすことはできないとしても、前向きで協調できる分野で日本側から呼びかけて関係強化の方に重点を移していくことが大事だ。対立を生みやすい尖閣諸島についての争いは「棚上げ」にして相互の行動を自制する方向で合意に努めるべきだ。
国際社会の中での日本と中国への評価や信頼度には差があることを中国が認識していることを期待する。仲たがいが報じられている日本と中国が協調関係に回帰すれば、世界も歓迎するだろうし、それは中国にとっても良いことであろう。
「大国」中国の自尊心を損なわないかたちで日本が中国に粘り強く協調を働きかけて、中国がこれに応じれば、中国も世界から信頼感を得られる。日本と中国が争うとアジア諸国にも戸惑いが深まる。日本は、広い視野から自分の特技を生かした外交戦略を立てて実行すべきである。
【小川 郷太郎】 現在 |