2016/03/16
第24話 近隣国の実情と日本
世界全体を見渡すと、グローバル化の加速と相互依存関係の深化が進んでいる。さらに近隣国の状況も注視しなければならない。
ロシアを含むアジア・極東の情勢も近年相当変化している。もっとも重要な変化は、中国とロシアが国際社会の既存の秩序に挑戦するような異質で大胆な行動をし始めていることである。つまり、欧米諸国や日本が信奉する民主主義や法治主義に基づく国際秩序と対峙する度合いが強まっていることである。この新しい状態を「新冷戦時代」と評する向きもある。
一方、朝鮮半島では、北朝鮮が核開発や軍事優先政策を継続しており、安全保障上の深刻な脅威が存続している。いずれも日本の安全に大きな影響を与えるものだ。
以下は、わかりやすいように私がやや単純化して描く近隣国それぞれの状況である。
(その1:ロシア)
プーチンが支配するロシアの情勢は、国内政治的には安定しているが経済社会的には苦境にあり、国際関係でも大きな不安要素を孕んでいる。最近の世論調査によるプーチンの支持率はなんと89.9%である。
しかし、ロシアを客観的に見ると、石油価格の低下傾向が続き国内経済は悪化しているうえに、既存の国際秩序への挑戦に対する反発や制裁を受けて世界の中で孤立を深めている。孤立を緩和するために、同じ現行秩序に挑戦する中国と戦術的連携を図っている。シリアの内戦に関してもしたたかな外交を展開している。
国内の高いプーチン支持と国際的孤立のギャップが顕著である。その状況を私なりに分析してみよう。まずロシア民族の長きにわたる意識では、国の指導者は出来るだけ強い権力を持つことと国境は出来るだけ広く外側に設定することが国の安定のために必要だと考える。
だから、プーチンが外交面で諸外国の圧力を跳ね返して強硬姿勢をとるとロシア国民は拍手喝采して支持する。とくにクリミヤ半島併合は国際法の明白な違反ということで国際社会の反発とそれに伴う経済制裁を受けたが、ロシア民族を護り領土を拡張する行為であるのでロシア人の熱烈な支持を得て人気が一層高まった。
国民には自国が孤立している客観情勢への明確な認識が乏しい。欧米諸国による制裁でロシア経済が一層苦境に陥っても支持率が上がる構造で、プーチンもそのことを意識して行動しているようだ。
ロシアの経済について見てみよう。私が旧ソ連邦崩壊の直前に勤務した頃(1988~90年末)は、ゴルバチョフによるペレストロイカ政策推進時代であった。外国人の旅行規制も若干緩んだので、できるだけ国内を見て回った。その時にわかったのは、ソ連(今はロシア)の国土があまりにも広大で、モスクワやレニングラード(今のサンクトペテルブルグ)を別にすれば過疎地が全国に広がっているという事実である。
資源が豊富でも、資源の開発地域及び製品の生産地と消費地とは何百キロ、何千キロも離れている。つまり、物を生産する場所と消費するための都市との距離は相当ある。それらを繋ぐ鉄道や道路は非常に長くインフラの整備や維持にはお金がかかり、とても大変である。
それだけでなく、厳寒の気候などもありインフラの維持状況は劣悪であった。都市に多くの人口が集中していて物流インフラも整っている日本と違い、ロシアという広大な国で産業を効率的に発展させるのは容易ではない。だから、ロシア経済は石油などの資源に大きく依存していて、石油価格が高い間は大いに潤ったものの、その間に懸案の資源産業依存から脱するための構造転換も目覚ましい進展がないので、最近の石油価格の下落で大いに困っている。
おまけに西側諸国からウクライナ問題で経済制裁を受けて、ロシア経済は大いなる苦境にある。問題は、今の経済状況がいつまで続くかである。石油価格は中期的に低い状態が続くという見方があり、産業構造転換も前述の次第なので、経済低迷が暫く続くものと思われる。
ロシアの対外強硬姿勢もプーチン大統領の性格や長いKGBでの経験などを考えると、大きな変化は予想出来ない。経済が真に深刻化し、それが長く続き国内の不満も出てくると外交政策や手法の変化が起こるかも知れない。
北方領土返還問題については、プーチン大統領の思想や行動様式、さらにはロシア国民の思考様式を考えると、ロシアの姿勢の軟化はほとんど期待できない。だから、北方領土の解決は短期的に進展しないと思われる。
日本としては、戦後70年にわたり耐えてきた現状を今後も耐え続けることは不可能ではない。我が国はいたずらに妥協を図るのではなく、現状は違法占領であり、四島の帰属を確認して返還を求めるとの原則的立場を内外に揺るぎなく主張し続けることが賢明だと考える。ロシア経済が長期低迷して真に深刻化した時などに返還交渉を活発化することを考えたらよい
【 旧ソ連邦モルドバ風景 】
【小川 郷太郎】 現在 |