2016/03/02
第23話 グローバル化の加速、相互依存関係の深化
さて、日本が内向きで衰退していると言ったが、それでは世界はどうなっているのだろう。世界を全体として眺めてみると、ここ2~30年で顕著な動きがある。グローバル化の加速と相互依存関係の深化・拡大である。よく耳にする言葉だが、いくつかの具体例で考えてみよう。
学者的な正確な定義ではないが、グローバル化とは、物事が地球規模で拡がり、世界の国々や人々が互いに影響し合い関係し合うような現象といってよい。インターネットや電子技術の発達で、たちどころに世界中に情報が伝わり交信することができ、国際的な支払や決済とか株式投資も簡単に実行できるようになった。
貿易や金融の発展に従い製品の規格や標準の同一性も高まり、経済の流れが一層活発になる。経済がグローバル化すると人の行き来や物流も世界規模となり、それに伴って社会生活や文化(ファッションや食べるもの、考え方など)もグローバル化してくる。日本のマンガやアニメが世界中の若者に人気があるのも一種のグローバル化かもしれない。音楽だって、人気ミュージシャンは国境を超えて人々の心を捉える。
こうした文化のグローバル化を通じて、世界の若者の間に共通の感情も生まれつつある。世界の人々が、共通の課題や問題に遭遇し、あるいは楽しみを共有するようになる。ここでは、国境というハードルが低下し、民族や文化の違いが障害にはならなくなってきたと言ってもいい。
グローバル化をもっと広く捉えるなら、地球温暖化が深刻化して世界の大部分の地域に影響が浸透していること、地球上のどこかで発生した感染症があっという間に多くの国や地域に蔓延したりもする、今やテロリズムも世界の各地で連携して拡散している。どこでも対策が必要となる状況に直面し、世界が一体となって解決策に取り組まざるを得なくなった。こういう事態もグローバル化の一種かも知れない。
もうひとつの「相互依存関係」とは、文字通りお互いに相手に依存する関係であるが、そうした関係が近年著しく深まり、かつ空間的にも拡大してきた。とくに貿易や投資の分野で顕著である。日本は中国や韓国との外交関係が最近うまくいっていないが、実は日本と中国、日本と韓国は互いに密接に深く依存し合っている。
何年か前、中国から輸入した冷凍餃子に不純物がありそれを食べた人が中毒を起こした事件があったとき、「アーそうか、餃子も中国から輸入しているのだ」と気付いたことがある。
日常的な食品も海外に輸出したり、他国から輸入したりしている。それは相手の国の製品の方が安かったり、自国にはないものだったり品質が優れているからなどの理由であるが、買う方も売る方も互いに相手が必要で相手を頼りにしているのだ。すなわち相互に依存しているわけである。
餃子のような食品だけではなく、精巧な工業製品の部品やそれを使った完成品もお互いに必要だから売り買いしている。「世界の工場」とも言われて世界に輸出される中国の工業製品の多くに日本の部品が使われている。中国で造られるスマホの精巧な部品の大部分が日本からの輸入である。
中国製品が世界でたくさん売れれば、日本の部品の対中輸出が増え、日本も儲かる。中国経済が減速すると日本(もちろん中国に輸出する他の国も)の経済にも悪影響が出る。韓国との関係にも似たところがある。政治や外交面で仲が悪くても経済関係を緊密にしておかないと、日本も中国もお互いに損をするのが現実だ。政治・外交関係が良ければ、経済関係も一層潤滑になる。お互いに依存し合っているのだ。喧嘩などしていられない状況なのだ。
経済の相互依存関係は二国間だけでなくもっと広範に及ぶ。東日本大震災の津波によって東北地方にあった工場が破壊されたため、これらの工場で作っていた部品の輸出が出来なくなった結果、日本の工場から部品を輸入して完成品などを作っていた海外の工場は操業が出来なくなってしまったことが思い出される。
影響が出た工場は世界各地にあり、広範囲にわたる相互依存関係の実態が印象に残った。石油価格の変動、一国の為替や金利の変化なども他の多くの国に実質的な影響を与える。網の目のような相互依存関係だ。
相互依存関係は安全保障分野にも存在する。日米安保体制はその最たるものだ。日本は基地を提供することにより自国の安全のためにアメリカの軍事力をかりて抑止力を得る。アメリカは日本の基地の活用によってアメリカ自身の安全や世界の安全保障への影響力行使に役立てる。
北朝鮮の核開発や中国の軍事的台頭という現実があるので、アメリカや豪州などとの相互依存関係は日本にとっても不可欠なものである。
このように、近年グローバル化の加速と相互依存関係の深化・拡大はますます顕著になっている。このことは何を意味するだろうか。日本を含めどの国も黙っていてもグローバル化や相互依存関係の深まりの影響を受ける。しかし、意識していると一層それらの影響の姿が良く見えるし、その影響を利用したり悪影響を回避することもできるのである。
グローバル化や相互依存関係深化の影響はけして一国、一国民では対応できないものになっている。だから、外国に目を向け、外国と交わらざるを得ないのだ。日本の社会が安定していて、ほどほどに満足する生活ができているからこれでいいんだなどと言っていられない状況にある。世界がどんどん変化しているのだから、島国のようにのんびりしていると世界の流れに遅れ、「ガラパゴス化」してしまう。
今日の世界の現実は、国、国籍、民族、宗教などの要素を超えて互いに影響し合う。だから、海外の状況に目を向け、世界と交わり、繋がることが不可欠である。
【小川 郷太郎】 現在 |