名人のこだわり
「デザートについて」
料理ですと、素材の加工をしっかりすれば、「料理」として出来上がって行く所があります。
しかし菓子造りの場合には、もっと明確な「造る意思」が求められます。
基本的には「小麦」「砂糖」「卵」「乳製品」の4つの組み合わせから造り上げていきます。
そして基本的な「スポンジの配分」という物はあっても、
その配合の上下で無限に近い組み合わせがあるんです。
身近な所で言えば、コーヒーを飲む時を考えてみて下さい。
単純なようでいて、クリームと砂糖の量の配合だけでも大きな味の違いが出ますよね。
そのように、同じ物を作っているように見えても、大変な違いがあります。
デザートにおいて食材の差が出るのは果物です。
苺を思い起こす方が多いかと思いますが、決して上品な果物ではありません。
大変に、やんちゃでおてんばな食材なんです。
自己主張が強く、放っておくとどこにいても「私は苺」と目立ってしまう。
苺の調理方法は、「落ち着かせて馴染ませてやる処理」となります。
苺のショートケーキでも、本来は苺の加工をしてあげたほうが良いです。
「ロマノフ」というデザートがありますが、
苺に砂糖をまぶし、コニャックで軽くマリネし、
それにクレームシャンテをつけて食べる物です。
苺の調理としては一番美味しいものかと思います。
苺の元々の強い部分も残っているし、ブランデーで香りはより強くなる。
かつ融通のきかない苺の自己主張も収まり、馴染みやすくなるのです。
ロマノフ
加工で甘くする栗などでも、元の栗自身が良くないと、
砂糖の甘さだけが舌に残ってしまいます。
元々の栗の甘さ、風味がしっかりないといけません。
フォンでは極力作りたての物でデザートをお出ししています。
アイスクリームは作った物を一度しっかり凍らせ固めてしまうと、
味が違ってしまいます。
それはかき氷で考えると分かりやすいかと思います。
ザクザク削ったものと、カンナで綺麗に削った様なふわっとした氷では大分味が違う。
綺麗に削ったものは、あまり冷たく感じません。
アイスクリームは一度凍らせると、含まれている空気が減ってしまうのです。
いつも意識している事は、
「コースの中でのデザート」としてしっかり味を清算しよう、と作っています。
私は料理の後味が食事後も残るのは、良い事では無いと考えているからです。
コース全体を考えて、ここがこういう味だからこうする、
とデザートを決めたり、同じスポンジでもバターの量を変えたりして調整をします。