名人のこだわり
「料理名について」
料理名については、
シェフの料理に対する考え方が出る、大事な部分かと思います。
ステーキの「ロッシーニ」や「シャリアピン」は人名に由来します。
ロッシーニは美食家でもあったイタリアの作曲家に由来し、
シャリアピンは帝国ホテルでロシアのオペラ歌手「シャリアピン」用に
作った事から、その名が付きました。
古い料理にはそういった料理名が多かったのです。
アラン・シャペルというシェフがおりましたが
彼の料理名は特徴的でした。
ずらずらと、使っている材料を全て列挙するんです。
最近の料理名は単純になっている気がしますね。
これまでのメルマガの料理の写真でお気づきかと思いますが、
FONDでは特に料理名は無く、材料のお話だけしています。
FONDでは、食材に関してのリクエストなどもいただきますが
基本的には「おまかせ」でその時に美味しい物を調理して
お出ししています。
目の前に料理があって、それを食べるだけの状況ですので
そこにわざわざ料理名をつける必要はないと考えています。
ただ、材料と産地はお伝えしています。
食べる側の立場に立っても知りたいからです。
食材も勿論ですが、産地に関しては
「あの魚が美味しかったからまた食べたい」とだけ言っても
「シャブリが好きなので、シャブリを下さい」とだけ言うのに近く、
美味しいと思っていた物、欲しかった物とは違う物が
出てきてしまう事があります。
シャブリにもいろいろなタイプがありますし、
食材も産地によって別物くらいに違う物もあります。
産地までがあれば、その後の「手掛かり」にもなりますので一緒にお伝えしています。
決まっている料理名の、決まっているレシピを作る事については
調理が「作業」に陥りやすい原因だと思っています。
淡路・由良の鱧の薫製、みずの実、菊の花、15年物の梅干し
料理の本で、分量の書いていないレシピ本という物があります。
材料や調理法はあっても、それぞれの分量は書いてありません。
それは素材の味が違っていたら、
分量を決めてしまっていても仕方がない、という事です。
野菜や魚の部分でも述べましたが、同じ産地の同じ物でも、
翌年になると味が大きく違ってくる事もあります。
これもやっぱりワインで例えるとわかりやすいですよね。
ヴィンテージです。
葡萄があれだけ毎年違うんですから
食材だって毎年出来が違ってくる事もあります。
同じ鮎でも去年はこのくらいの時間焼いたけど、
もう少し時間をかけて焼く、と調整したりします。
もちろん同じ年でも、条件で食材は違ってきますので
それは実際に確かめながら、
分量や調理で調整をしていく必要があります。
また、レシピで魚が出てきても、
「フランスに比べて日本のこの魚は味が薄いから違う物になってしまう」
などという話も聞きますが、別の調理をすればいい話だと思うんです。
レシピや料理名に縛られて
良い物を作れなくなってしまうのなら、
それは本末転倒だと思うのです。
次週は「料理と"情報"について」をお送りします。