私と柔道、そしてフランス…
-「第十九話 アフリカ大陸へ上陸」- 2018年6月7日
ボンベイを出ると次の寄港地は仏領ソマリの首都ジブチです。
その間約3,250kmの海路を5、6日かけて航行します。
アデン湾に入るまで、どちらを見ても陸地が見えないインド洋を、ただひたすらに進みます。ときどき、イルカやトビウオの大群が現れます。
1896年にフランスはこの地を植民地化し“仏領ソマリ”と命名しました。
1967年には“仏領アファル・イッサ”と改称。ようやく1977年に独立し、“ジブチ共和国”となります。
従って、我々がこの地に寄航した1963年11月は、まだ仏領ソマリの首都としてのジブチでした。
ジブチは紅海の出入口に位置しているため、現在はフランス、アメリカの重要な軍事拠点になり、イタリアも基地を持ち、中国人民解放軍は初の海外基地をここに開設しました。
さらに、ソマリア沖の海賊問題に対処する拠点としても重要視されていて、日本も自衛隊の“派遣海賊対処行動隊”を当地に駐留させています。
そのため、ニュースなどでこの地が話題になることも多く、日本人観光客も増えたようですが、この船旅に出るまでは話に聞いたこともない土地でした。
船のパーサーや船員から、街の治安の悪さ、劣悪な衛生状態を指摘されましたが、あえて一人で街に出かけました。
しばらく歩き回って感じたことは、それまで見てきた香港・シンガポール・コロンボ・ボンベイなどのイギリス風とも、“東洋のパリ”と呼ばれたサイゴンのフランス風とも全く違う街並・雰囲気だということです。
しかし、どこかで見たような街並ではあるので、いろいろ思い返した結果、ハタと思い出しました。
それは、それまでに何度も見たハンフリー・ボガード/イングリッド・バーグマン共演のラブロマンス映画『カサブランカ』です。
この映画の舞台になったのがフランス領モロッコの最大都市カサブランカで、このジブチの街並・雰囲気とそっくりなのでした。
どこを歩いても、治安の悪さはすこしも感じず、暑さに耐えられなくなってカフェに入ると、そこにたむろしていた人達5人程が寄って来て、質問攻めに会いました。
矢継ぎ早に「中国人か?」「ヴェトナム人か?」「フィリッピン人か?」と問われますが、なかなか「日本人か?」が出てきません。
痺れを切らして、こちらから「日本人だ!」と言うと、なぜか皆大喜びで、イスラム国ではご法度のはずのビールを奢ってくれました。
初めて日本人と話したそうで、目の色を変えて質問してきますので、かなりの時間を割いて丁寧に、片言のフランス語で質問に答えました。“これが民間外交なんだ”と一人納得していました。
さらに足をのばして街の外れに行くと、とつぜん、赤茶けた砂漠が現れました。
陽炎が立つ地平線に広がる美しい砂漠をながめながら、アフリカの片隅に立っていることを実感しました。
ジブチを出てしばらくすると、紅海に入ります。
誰でも、“紅海”と聞くと、海水に鉄分でも多く含まれている、“赤い海”を想像します。
私もその時までそう信じていましたが、行けども行けども青く澄んだ海なのです。
また、地図を見ますと、紅海は細長い海峡のように思えますが、場所によっては船からは岸は見えません。
スエズ運河に近づいた所で、ようやく両岸の様子が眼に入ってきました。
そこで“紅(い)海”の理由らしきものが見えてきました。 両岸に果てしなく広がる砂漠が、前日ジブチで見た砂漠のように、赤茶けているのです。
どうもこれが、“紅海”のもっとも有力な謂れのようです。
次回は「第二十話 悠久の国・エジプトへ」です
【安 本 總 一】 現在 |