ソムリエの追言「ブドウも!? チョイ悪オヤジがモテる理由 樹齢について」

ソムリエの追言「ブドウも!? チョイ悪オヤジがモテる理由 樹齢について」


樹齢

●外国の方の読者も多くいらっしゃるので、漢字にふりがなをつけてお送りしております。

M「そうそう、シャトー・ラ・ジョンカードの各ラベルの説明に樹齢(じゅれい)の話があるんですけど樹齢によってなにか違うんですか。 」

K「いいところに気がつきましたね、説明しなくちゃと思ってたとこなんですよ。」

M「でも、『赤ラベルの樹齢45~55年の充分に成熟(せいじゅく)した』 って、もうすっかり、中年ですよねぇ」

K「年齢(ねんれい)だけで判断(はんだん)しない!」

M「ど、どうしたんですか」

K「いや、つい何か ある種の感情が・・」

K「確かに、人間でいえばそうかもしれないですね。

ただ、ブドウ樹(き)の寿命(じゅみょう)は 100年、200年とも言われているんですよ。」

M「そんなにですか、では、45年といったら、働き盛りなんですね。」

K「うーん、そこはまた、微妙(びみょう)で、ワイン造りのブドウは大抵50~60年 くらいで植え替えられます。悲しいかな、これが現実。」

M「なんか、変な感情移入してませんか。」

K「まぁブドウによっては、30年から80年とまちまちらしいけど。」

M「では、やっぱり働き盛りを過ぎてるんですよね。」

K「だから、年齢で人を判断しないでと・・・」

M「ブドウの樹の話です。」

K「そう、確かに若いブドウの樹が持つパワフルさには勝てないかもしれない。

しかし、彼らにはない、知識(ちしき)・経験(けいけん)・判断力(はんだんりょく)・実績(じっせき)がある。」

M「彼らって・・・。知識・経験って・・。」

K「うーん、バランスだったり、成分的に優れた、趣(おもむき)があるというか。」

M「ブドウがより上質ということですか。」

K「そうだともいえる。」

M「どうして、上質なブドウが出来るかきちんと説明してください。」

K「実は、逆説的(ぎゃくせつてき)なんだけど、良いワインのぶどうを作るにはブドウの樹にとって、厳(きび)しい条件が必要なんだ。」

M「たとえば、どんな条件ですか。」

K「水と養分(ようぶん)なんだ。これが、限られているところが理想だそうだ。」

M「 あまり、与えたりしないということですか。」

K「そう、甘やかしちゃダメなんだ。ブドウの樹も人も。与えてばかりでは、弱くなってしまう。」

M「 ですから、ブドウの話で具・体・的・にお願いします。

K「もし、君が痩(や)せている土地のブドウの樹だったら生き延びていくためにはどうする?」

M「 いきなりすごい質問ですね。そうですね、えっと、誰もなにも、与えてくれないんですか。」

K「最低限の水分や養分はある。」

M「とりあえず、じっとしてますね。自分のエネルギーを節約します。」

K「不景気育ちの若者は、これだから・・・。」

M「何か言いました?聞こえませんよ。」

K「でも、より成長していくためには、何か努力(どりょく)が必要だよね。」

M「なにか、自己啓発(じこけいはつ)のセミナーみたいですけど・・・。うーん、そんなところ居たくないですね。引越しは?」

K「ブドウの樹は動けません!だから、自(みずか)ら努力して探すしかないんです!」

M「探すって、何処をですか?畑は痩せてるんですよね。」

K「そう、畑は痩せてるけど、地中奥深くにはまだまだ水分と養分がたっぷりとある!」

M「・・・そうか、わかりました!根(ね)っこですね。根っこをどんどん下へ伸ばしていけばいいんですね。」

K「学校で習ったと思うけど、地中は、いろいろな地層(ちそう)で成り立っているよね。

樹齢が長ければ、長いほど、時間をかけて根が成長し、いろいろな地層からミネラル分などの養分を水分と共に取り込んでくるんだ。」

K「ここから、ブドウの実(み)が樹齢によって成分的に質が違うといわれているんだ。科学的に証明されてはない話なんだけど。

でも、ブドウの樹の根は長いと地中深く12mまで伸びていることも確認されているんだ。そう考えると・・・。」

M「12m!そんなに、深くですか。

それなら、根っこが1mの若い樹とは全然違う養分を吸収してるでしょうね。

科学的な根拠(こんきょ)はなくても、樹齢と根っこの長さから、出来るブドウの質が違うということ、何か分かる気がします。」

K「こうした狙いから、ワインのブドウ畑は、農作物には向かないような厳しい環境、痩せた土壌(どじょう)にして、根を下に向けさせているんだ。また、恵(めぐ)まれた環境にしてしまうと、根は下に伸びず、横へ広がってしまうともう一つ困ったことになる。」

M「となりの樹とぶつかってしまうとかですか?」

K「それもあるけど、一番は雨。地表近くに根が多くあると、雨が降ればその影響をモロにうけてしまう。

つまり、水分が多く吸収されてしまうということ。」

M「それがなぜ、ダメなんですか。」

K「ワイン造りのブドウは、水分は必要最低限ありさえすればよく、他の成分が濃縮(のうしゅく)していたほうが 濃くて、熟成(じゅくせい)にも向く上質なワインになるといわれているんだ。」

M「みずみずしいブドウの方が美味(おい)しいワインができそうなイメージありますけど・・・。」

K「美味しいワインは出来ると思う。でもきっとそういうワインは、長期熟成はできないはず。」

K「 だから、ヨーロッパをはじめ、高級ワイン、長期熟成ワインをつくっているところでは、収穫(しゅうかく)前の数週間、長く雨が降らない時期をうまく過ごして、 雨が降ると思われるぎりぎりのところ直前まで、完熟させること 成分を濃縮させることに神経を使っているんだ。」

K「他所(よそ)と差をつけるため、収穫日を決めるのが、駆け引き(かけひき)となっているくらい。

一日でも遅く収穫するほうが良いのだが、タイミングを逃して雨が降ったら、残念な結果に・・。」

M「どうなるんですか。」

K「ワインが水っぽくなるんだそうだ。せっかくの成分が薄まるというイメージかな。

薄まるといえば、ブドウの実自体につく水分も、駄目なんだ。だから、収穫日に霧が晴れない状態では収穫しないし、雨の日などもってのほかだね。」

M「ブドウの実に付く水分で、薄まるのは分かるんですけど、根っこからの、水分吸収(きゅうしゅう)がそんなに、影響するんですか。」

K「これは想像(そうぞう)だけど、やはりブドウの実は、自分の可愛い子供みたいなもんじゃないかな。

つまり、雨からなどの水分を吸収すると、真っ先に、ブドウの実に水分などが運ばれてしまうんでは。子孫(しそん)を守るために。」

M「根っこが地表に近いと、大量の水に接してしまってそれが吸収されていくということですか。」

K「そういう意味でも、根が地中深くにあった方が影響を受けにくいよね。」

M「そうなんですか、だから、根っこが下へ向いて伸びている、イコール 樹齢の長いブドウの樹からのワインが上質ワインである目安になるんですね。」

M「やっぱり、ブドウの樹も、若い子より、いろんな遊びを知っていてちょっとしたトラブルにも動じないチョイ悪オヤジ系がいいんですね。」

K 「いや、そういう話では・・・。」