外交官 第21話 評価される日本人の資質

2015/10/14

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第21話 評価される日本人の資質 


世界のどこにも素晴らしい人たちが
世界をあちこち廻ってきた私の感想は、地球上のどこにも素晴らしい人たちがいるということだ。

アフリカ大陸には人情厚く優しい人たちが多い。民族や国によって育まれた文化は素朴であっても、木彫りの彫刻や絵画には人間的な温もりがあり、織物などの色彩は美しい。
カンボジアの人々はとても謙虚で、こちらの心が癒され和むようなところがある。
フランス人は好奇心旺盛で個性的なところが魅力であり、友人になると人情はとても篤い。
デンマーク人には質実剛健さや飾らない気質があって、お付き合いしやすい。
いま、相互の国民感情が悪化している中国や韓国との関係でも、現地に行って人々と接してみると、日本に好意を持つ人たちの多いことや、日本人とは違う性格や行動様式に関わらず親しくなれることにも気付く。

どこの国民にも良いところがあり、そういうものに目を向けることが人生を豊かにするものだ。
では、日本人は世界の中でどのように見られ、位置づけられているだろうか。私の観測では、日本人は世界の多くの人々から非常に高く評価されている。エピソードなども交えながら比類なき日本人の特質などについて、見てみよう。

日本人の緻密さ、規律、秩序
最近フランスに3週間ほど滞在して各地を回ってきた。
かつてではそうでもなかったが、最近のフランスの国鉄は遅れが多い。各地を移動するため、長短合計7回列車に乗った。
私を泊めてくれたフランスの友人が、「列車はいつも遅れるよ。時間どおり着いたら驚きさ」と自嘲気味に言った。

やはりそのとおりで、7回乗ったうち、時刻通りの到着はたったの1回で、その他は10分から1時間ほど遅れた。フランス御自慢の新幹線(TGV)もパリ・マルセイユ間で1時間近く遅れた。途中でスピードが落ちたり、野原の真ん中で暫く停まったりした。きれいな田園風景の真ん中だったから退屈はしなかったが、途中で乗り替える人にとっては次の列車に乗れないこともある。日本ではちょっと遅れてもくどいほどお詫びをするが、フランス国鉄は殆ど詫びないのも国民性なのだろうか。

通常は遅れない日本の新幹線。あれだけ過密なダイヤを組んで時刻通り正確に走ることに世界は驚異的だと称賛する。
運行に関する様々な要素を緻密かつ誠実に点検しつつ正確に走らせる日本人の規律や責任感は見事なものである。

「秩序」という見地から世界中が驚嘆したのは、2011年の大震災の際の日本人の冷静で秩序のある行動であった。被災者が長い列で整然と順番を待ち、時にはより被害の多い人に順番を譲ることなどが、外国人の特派員を通じて世界中に報道された。
海外にはあのような大震災に会うと食糧を求めて人々は店舗などを略奪するのが当たり前のような国が少なくないので、なおさら日本人の秩序ある行動が世界の賞賛の的になった。

誠実さ、礼儀、勤勉、責任感
私は、イラク戦争終了後の2006年から10年までイラク復興支援担当大使をつとめ、日本とイラクを行き来したり国際会議に出たりして日本政府によるイラク復興支援の仕事に携わった。

バグダッドではよくマーリキ首相にお会いしたが、最初のときから会うたびに首相や関係閣僚が言ったことが頭に残っている。
「イラク政府としては、是非とも日本の企業と組んでイラクの復興を目指したい。それは、かつて(1970年~1980年代)イラクには数千名の日本企業の駐在員がいたが、日本製品の技術や品質がきわめて高いうえに、イラクの企業や政府と誠実に話合い、納期や工期を着実に守り、問題があるとすぐ対応してくれたからだ。
イラクは日本人の誠実さ、礼儀正しさ、責任感などに多大な信頼を置いており、復興を図るため、他国ではなく日本の企業と協力したいのだ。」

しかし、治安の悪さを理由に日本の企業がなかなか出ていかないので、私は会うたびにマーリキ首相からお叱りを受けたほど、日本への信頼が厚い。イラクに限らず、中東地域では日本がこのように評価されている。

他者への配慮、「おもてなし」、笑顔の接客態度
日本人は一般的に他者へ気を使う習性が強い。いいことではあるが、あまり気を使いすぎて時には本心より「義理」で行動することもある。また、無理に自己犠牲をして対応することになるのであれば問題だ。 それはともかく、日本人の他人への気遣いが外国人に好印象を与えていることも確かである。

オリンピック誘致活動の最終段階での滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」の言葉が一躍有名になった。ただ、外国人だっておもてなしの心は持っている。
私自身、多くのフランス人、アメリカ人、韓国人、カンボジア人などの友人から親身になってのおもてなしや親切を受けて感動した経験がたくさんある。飾らないで他者への思いやりを持つ人は海外にも多くいる。

では、日本人の「おもてなしの心」とは具体的にどんなところに現れているのか。すぐ思いつくのは、日本の店やホテル・旅館などでの従業員の丁寧な接客態度がある。笑顔で礼儀正しく挨拶したり、客の注文に懇切丁寧に応えてくれる。格式のある旅館の廊下や室内には心を和ませる花や調度品が心憎いまでの端整さで飾られていて、お客さんに寛ぎを与える。

これとは逆に、私の旧ソ連勤務時代の経験だが、店の売り子のやる気ない態度、ぶっきらぼうで失礼な振る舞いにはびっくりすると同時にしばしば怒りがこみ上げたことがある。

先日、テレビで中国の店員さんたちが日本人の接客態度を身につけようと一生懸命訓練を受けている風景を見た。とにかくまず笑顔を見せようと努力するが、慣れていないので顔が引きつったり、明らかな作り笑いになって苦労している様子だった。日本人なら自然に笑顔で対応できる。そんなところが、外国人に好感を与えていることは事実だ。


清潔さ、安全性
日本を訪れる外国人が感心するのは、街の清潔さや夜でも女性一人で歩ける治安の良さだ。 清潔さはいろんなところで現れている。中でも地下鉄や新幹線の清潔さはパリやニューヨークなどよりずっとすぐれている。

東京駅など新幹線の主要駅では、列車が到着した後に折返しで次の新しい行先に向かうことが多いが、その準備の手際の良さには日本人でも目を見張るほどである。列車の到着後乗客が降車するや否やユニフォームに身を固めた車内清掃部隊が整列して待ち構えていて、僅か数分か10分ぐらいで全車内を綺麗に清掃して座席の向きを整え、座席の頭部に清潔な白い布を貼り替える。
外国ではどうかというと、フランスの車両はあまり洗っていないようで、汚れが車体の随所に見られる。

日本の新幹線は大きな事故を起こしたことがないし、走行時の横揺れも極めて小さくて安全だ。これらは他国が真似が出来ないほどの日本の特技でもあって、世界に大いに誇ってよい。

安全性といえば、食や製品の安全性についても日本は誇るものがある。時には問題が起きるとしても、一般的には日本の食品は安全である。子供のおもちゃや肌につける化粧品などにも慎重な安全対策を施して生産している。だから、最近報じられている通り、中国など近隣国の訪日客が日本の製品を求めて「爆買い」しに来る。

国民の資質、国の「徳」
こうしてみると、客観的に言って日本人の礼儀正しさ、謙虚さ、誠実さ、勤勉さや緻密さなどは世界に知られ、高く評価されている。
そうした日本人の資質が作り出している、社会の秩序や安全性も称賛されている。
外交面では平和外交を目指し途上国援助に力を入れてきたこと、また一部の大国のように国としての傲慢さや強引さを持たないことで、日本という国についての静かな敬意の念もあることを感じることがある。 日本人はこのことについて密かに誇ってよいと思う。
そのような表現は使われてはいないが、私は、日本には国としての「徳」があると思ってよいのではないかと考えている。

筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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