改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第二十五話 「第9章 悪魔の日曜日 4」

愛は国境を越えてやってきた。

不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、 日本人駐在員は愛と友情をかけて、 マフィアと闘う。

女剣士・小夏 ―ポルポト財団の略奪―

プーがまたトイレに入り、顔を伏せて部屋に戻る。

「おい、ちょっとプーを呼んで来いよ。」

「プーにも酌をさせるの?カーオが怒るよ」クンが甘えて言うと、 「そんなのじゃあねえよ。ちょっと気になるんだ、早くプーを呼んで来いよ」

なかなか呼びに行かないクンの頬をシーアは平手で叩いた。

「早くしろ。俺は気が短けぇんだよ」

クンはびっくりして、叩かれた頬を押さえながらプーを呼びに行き、プーとカーオを連れてきた。

「プー、お前の携帯を貸してくれ」シーアが言うと、 「いやよ」プーが後ずさりした。

シーアが立ち上がり、プーに近づいて行くと、 「おい、止せよ。言っといただろ、妹には近づくなって」カーオが割って入って言った。

「わかったよ。じゃあお前、妹の携帯をチェックしてくれ。さっきからトイレの回数が多い、出てきた時、泣いたあとがある。携帯が入ったバッグを持ってトイレに入っている。おかしいじゃあねぇか。万一ってこともあるぜ」

カーオが躊躇していると、シーアはカーオを押しのけてプーに近づき、 「携帯見せてくれよ。お嬢ちゃん」シーアはプーのバッグを奪おうとした。

「いや、お兄ちゃん助けて」

「うるさい」シーアはプーの頬を叩き、バッグを奪った。プーがバッグを取り戻そうとするのをカーオが止むを得ず抑えた。

「どうやって、使うんだこれ?クン見てくれ。どっかに電話してねえか?」

シーアが携帯電話をクンに渡すと、携帯を見て操作をした。

「・・・・・・さっきメールしているわね。宛名はキムラさんへ、スクンビット、ウドムスックアパート四〇四」って送っているわ。

「いつ送っている?木村ってだれだ?」シーアはクンに確認した。

「15分前ね」

「キムラって誰だ?」 シーアは、プーを睨みつけ怒鳴りつけた。

「受信メールにキムラってあるわ。ちょっと待って、読むから・・・・・・大変、キムラってあの日本人だわ」クンは悲鳴に近い声で叫んだ。

「15分前だって。すぐにここを出るぞ。クン、プンとカノムを連れて来い」

クンは大急ぎで隣室に行きプンとカノムを連れてきた。

「カーオ、クン、急いで出て行く準備をしろ。5分以内だぞ」

シーアはそう言うと自慢のナイフを取り出し、 「裏切りものは俺が始末する」

プーに迫っていった。

シーアは、鞘からドイツ製のトレンチナイフ(戦闘用ナイフ)を抜き出した。

「そこまでだ、俺の妹に手を出すなと言っただろう」

カーオはプーの前に回りバタフライナイフをポケットから取り出し、身構えた。

二人が向き合う。

お互いに相手の動きを一瞬も見逃すまいと鋭い緊張が張り詰めている。

その時、爆音が響きドアノブが吹き飛んだ。

プラモートのコルト四十四口径が立て続けに二発、ドアノブに撃ち込まれた。

ドアが蹴り開けられ、そこから木村が物凄い速さで突撃してきた。ドアには拳銃を構えたプラモートが立っている。

木村のいきなりの進入にカーオはバタフライナイフを木村に向けて思いきり横に払ったが、バタフライナイフの先には既に木村の身体はなかった。

カーオの足元に滑り込んだ。

加速のついた足刀がカーオの脛に見事に当たり、堪らずカーオは膝をついた。

すぐに起き上がっていて、カーオのナイフを蹴り落とすと、カーオの顔面に石のように固い正拳を撃ちこんだ。

「その物騒なナイフを捨てろ」プラモートはシーアに拳銃を向け、低い声で命じた。

「くそっ」シーアは怒鳴り、足元に自慢のナイフをたたきつけた。

「拳銃を捨てるのはあんただよ」クンがプンを後ろから抱えるようにして咽元に包丁を突きつけている。

プラモートが俺を見た。拳銃を捨てるように目で合図をし、首を立てに振った。

「良くやった、クン。こいつらの仲間がその辺にいるかもしれない。お前はそのガキを連れて一緒に来い」そう言うと、シーアはプラモートの拳銃を拾った。

「ガキとお前だけくればいい。他の連中は役に立たない」

クンはカーオを見つめながら拳銃を持っているシーアに従った。シーアが注意深く廊下を見たが誰もいない。

シーアは、拳銃を構えて廊下を走りその後にクンもプンを連れて走った。

直ぐにシーアを追った。プラモートにカーオを見張るように言い捨て、カーオのバタフライナイフを拾い、3人の後を猛スピードで追った。



泰田ゆうじ プロフィール
元タイ王国駐在員
著作 スラム街の少女 等
東京都新宿区生まれ