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外交官 第16話 現場に行かなきゃわからない (その1)社会主義体制の崩壊を予言(1/2)

【小川 郷太郎】
全日本柔道連盟 特別顧問
東大柔道部OB
丸の内柔道倶楽部
外交官

第16話 現場に行かなきゃわからない

2、3年前、若い人のグループに海外に行くことに興味あるか聞いたとき、「いやあ、今はインターネットで何でもわかるから、行きたいとは思いません」と答える人がいた。それに続けてもう一人の若者は、「日本は何でも便利だから海外旅行に興味ありません」と熱意のない声で付け加えた。

インターネットで何でも分かるというのは、実はとんでもない誤解だ。確かにキーワードを入れるとインターネットは何でも教えてくれるが、それで分かったつもりでいると判断を誤ることになる。

インターネットも新聞やテレビの報道も複雑な事象のごくわずかな一部分しか伝えてくれないからだ。

そもそも報道は、事件など日常的でないことを一生懸命知らせる。誰かが悪いことをすると、その人をいかにも悪い奴だという感じで報道をする。多くのメディアが競争で報じるので益々そのイメージが広がっていく。
中国や韓国で反日デモがあると、メディアは一斉に報道するので、それを見ていると中国や韓国の国民全体が反日だと思いがちである。そういう時、日本が好きで、日本のいいところを知っている多くの人たちの行動や気持ちは殆ど知らされないから、全体像を見誤ってしまう。

インターネットもある事柄についての知識は与えてくれるが、周囲の景色、現場の雰囲気や空気まではわからない。離れたところにいる人々の気持ちや息づかいなどはとても知ることはできない。
だから、現場に行くことがとても重要になる。実際行ってみると予想しなかったさまざまなことに気付き、全体像把握に大いに役立つことになる。

もともと、私は未知の国に行くのがとても好きだった。初めての国や土地に足を踏み入れるときはワクワクと心が躍った。途上国の片田舎に行くと、水がなくてシャワーも浴びられないとか、落ち着いて手洗いが出来ないところも少なくない。食べる物の衛生状況が心配なこともある。でも、そういうところで生活しているのは同じ人間だと思えばいい。

結局はそこに行かなければ何もわからない。行けば、そこに住む人々の気持ちや風習が知れて興味深い。

これから、私が海外の現場を回って分かったことの例などをいくつか披露してみたい。

(その1)社会主義体制の崩壊を予言(1/2)

ちょっと自慢話になるかも知れないが、1970年の時点で私はソ連を中心とする社会主義体制は将来崩壊することを確信した。

ちょっと時間はかかったが19年後にその予測は見事に的中した。的中したのは社会主義体制下の東ヨーロッパをじっくり見て回ったからだ。

話はぐっと遡って1970年の夏。
私はフランスのボルドー大学で外交官の卵として研修中であったが、長い大学の夏休みを活用して当時「鉄のカーテン」と呼ばれた共産圏の東ヨーロッパを車で周ることにした。

外務省の通常の勤務ではいろいろな国に行くが、常に出張の目的があるので自由にあちこちを見て歩くことはできない。自由に見たいところを見るには大学に籍を置いて研修しているときの夏休みがチャンスである。
そこで、興味津々の「鉄のカーテン」の中に入って、その政治・経済・社会の体制の実情を肌で感じたいと思い、東ヨーロッパを観察する一人旅を計画したのである。

時間や地理を考慮して、ドイツ側からチェコスロバキアに入り、ハンガリー、ルーマニア、(旧)ユーゴスラビア、ブルガリアなど、チェコ以南の東ヨーロッパのすべての国を周る計画だ。途中、オーストリアやギリシア、イタリアなど非共産圏もあるが、それは通り道だから仕方がない。観光目的ではない真面目な学習のための旅行で、それが自分の外交官としての将来にも大いに参考になると考えた。実際、とても勉強になった。

車での旅だから、都市だけでなく小さな村も見ることができる。道路の状況や主要道路から外れた地域の情勢も線で結んだ観察が可能になる。

クレムリンを臨む
【 クレムリンを臨む(1988.10.8.)】



筆者近影

【小川 郷太郎】
現在





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