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私と柔道、そしてフランス… - 第五十話 受注第一号はモンペリエ大学!-

【安 本 總 一】
早大柔道部OB
フランス在住
私と柔道、そしてフランス…
2019年8月15日

- 第五十話 受注第一号はモンペリエ大学!-

  モンペリエ赴任が決まった直後、フランス人の営業部長に、モンペリエ大学の理学部とトゥールーズのInstitut d'Optique(光学研究所)に下見・見学に連れて行ってもらいました。モンペリエ大学理学部では、我々の大型透過型電子顕微鏡「JEM-7」型がすでに稼動していました。

  そして、モンペリエに着任してすぐに、その理学部電子顕微鏡室に赴任の挨拶に行きました。そこで、耳寄りの話を聞いたのです。営業部長との訪問の際には話題になりませんでしたが、担当教授が最新の大型電子顕微鏡購入の予算を申請しているとのこと。我々には見積りの請求はなかったので、恐らくライヴァル会社の見積りで申請されていると考えられました。

 我々に見積り依頼がなかったことが私にとっては非常にショックで、いろいろ調べたところ、「JEM-7」型の経験から、我々のアフターサービスに不安を感じていることが分かってきました。

  高価格の理化学分析器機の販売競争で重視されるのが、性能・操作性・価格・アフターサービスです。場合によっては、このアフターサービス が最重要視されることもあります。モンペリエのケースはこれに当たる、と判断しました。

  その後、教授やオペレーターをちょくちょく訪れ親しくなっていく中で、メンテナンス担当ではないにしても、ジェオルの人間が常にそばにいて、“トラブル発生時には即時対応してくれるだろう”との期待感を持ち始めていることが、少しづつ伝わってきました。また、柔道を通して知り合った前述のシャルル学部長も、ジェオルにとって良い方向で、口添えしてくれたようです。

  しばらくして、予算が通ったこと、次いで機種は「JEM-100C」に決定したとのニュースが入ってきました。私にとっては、入社以来初の吉報、嬉しい嬉しい“受注第一号”です。

  一方、世界的な電子顕微鏡のメッカであるトゥールーズのInstitut d'Optique(光学研究所)は、1958年、元CNRS総裁のガストン・ドュプイ博士によって設立されたもので、同年に製作された、より厚い試料・生きた生物を観察できる(?)、その当時世界唯一の1000㌔ヴォルト(百万ヴォルト)の超高圧透過型電子顕微鏡で世界的に有名になった研究所です。

ドュプイ博士の超高圧(1000KV)電子顕微鏡
【ドュプイ博士の超高圧(1000KV)電子顕微鏡】

  翌1959年には、この超大型電子顕微鏡を収める球形の建物 「LA BOULE(ラ・ブール:球体)」の落成式がドゴール大統領臨席の下に行われたこともあり、トゥールーズの名所になりました。

トゥールーズの名所「ラ・ブール」
【トゥールーズの名所「ラ・ブール」】

 1966年に1000㌔ヴォルトの透過型電子顕微鏡「JEM-1000(高さ:10㍍/重さ:30㌧)」を完成して、1967年にはスウェーデンの「国立金属研究所」から受注している日本電子としては、トゥールーズの光学研究所を見過ごしている訳には行きません。

JEM-1000
【JEM-1000】

  営業部長の紹介を受けて、恐る恐るこの研究所にも出入りするようになりました。ここでは、自身の研究に没頭されているドュプイ博士に代わって、副所長が采配を振っていました。数ヶ月してその副所長から、「分解能(注1)に優れた透過 型電子顕微鏡が至急必要になった。予算は申請していないが、何とかするので至急検討して欲しい」との依頼がありました。

 パリ本部と相談した結果、世界最高の分解能を保証している最新鋭機種「JEM -100C」は、研究所の希望している納期に間に合わず、仕方がなく、パリ展示場に設置してあるデモ用の「JEM-100B」を提案することになりました。当機種は、「JEM-100C」のひとつ前の機種で、保証分解能でこそ少々劣りますが、その他はほぼ同等の性能を持つ、優秀な電子顕微鏡です。その上、デモ機ですので価格的にも、先方の希望に合わせられます。

  この提案に研究所も同意して、早速展示場の「JEM-100B」を納入し、パリ本部の平川サービス部長自らが設置に当たりました。ところが、どうしたことか、この機種最高の保証分解能が出ないのです。全ての保証値が確認できないと、設置修了書にサインがもらえません。それでは、売上げを計上することができませんし、支払いもしてもらえません。

  しかし、研究所が期待していた分解能は十分に得られたため、研究所としては同機を使いこなしていました。結局、数年間このような状態が続き、ジェオルとしては最後の手段として、完成した「JEM-100C」と交換し、全ての保証値を確認して、設置修了書にサインをもらいました。1974年にもなっていました。 (なんと、5年近くも無料で使ってもらっていたわけです!)

 当研究所から受注したという事実だけでも、我々の営業活動に大きく寄与してくれたことは確かで、また、トラブル処理の仕方も日本人らしいと高く評価され、決してこの受注を後悔したことはありませんでした。今となっては、良き思い出です。

(注1)分解能:接近した二つの点や線を分離して見分ける能力。

  次回は「第五十一話 NMR(核磁気共鳴装置)等の営業活動」です。  


筆者近影

【安 本 總 一】
現在




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