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改訂版 新・スラム街の少女 ―灼熱の思いは野に消えて― 第十一話 「第5章 モーターサイ大作戦」

女剣士小夏-ポルポト財宝の略奪
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梗概

カンボジアから日本に留学中の少女サヤは、ポルポト軍クメールルージュの 残党に突然襲われた。サヤが持つペンダントには、ポルポトから略奪した 数百億の財宝のありかが記されているからだ。絶体絶命の危機を救ったのは、 偶然に居合わせた女剣士の小夏(こなつ)だった。

ポルポトの財宝を略奪するため、小夏はカンボジアに渡る。 幼い頃の記憶を失っている小夏にとって、記憶を取り戻していく旅となった。 ほんのちょっと前にカンボジアで起こった20世紀最大の蛮行。 ポルポトは全国民の1/3にあたる200万人以上を殺害し、 それまでの社会基盤を破壊した。教育はいらない。ポルポトはインテリから 粛清を始めた。

メガネをかけている、英語が喋れるだけで最初に粛清された。 破壊された教育基盤を立て直すため、サヤはカンボジアのかすかな希望の光だ。 カンボジアの子供たちが日本のように誰でも教育をうけられるようにするため、 日本に送られたサヤ。 小夏、サヤは立ちはだかる悪魔の集団を打ち破り、 ポルポトの財宝を奪えるのだろうか。 その鍵を握っていたのは、カンボジア擁護施設を立ち上げた関根であった。

愛は国境を越えてやってきた。
不思議な力を持つスラム街の少女プンとともに、
日本人駐在員は愛と友情をかけて、
マフィアと闘う。
女剣士・小夏 ―ポルポト財団の略奪―

第5章 モーターサイ大作戦

クロントイに行く途中に彩夏に電話をかけた。
「マイがいなくなった。今、マイの家に向かっている・・・・・・」
「わかったわ。すぐに行きます」
 (・・・・・・そうだ。ついでにニンにも知らせておくか)電話で、
 「ニンちゃん、実はマイがいなくなっちゃたんだ。
今、マイの家に向かっているんだけど・・・・・・」
 「マイさんの家ってスラム街ね。わかった、わたしも行くからサトーンの
アパートに寄ってピックアップして」
木村とニンとプラモートが、マイの家に着くとすでに彩夏が来ていた。
 ニンを皆に紹介して、心配そうにしているプンとから一部始終を聞いた。
「なにかとっても心配なの」プンは不安そうに彩夏に言った。
 俺は、どうしたらよいかわからず、
「もう少し様子を見てみようか」と小声でニンに言った。
俺の発言を完全に無視してニンはプンに優しく言った。
「このクロントイで手伝ってくれる人いる?」
「ビッグベアのおじちゃんがいる」
「その人を呼んできて」
プンは走って出て行った。五分も経たないうちに熊のような大男を連れてきた。
ニンは皆に。
「カーオの仕業ね、答えは決まっているわ。
まず、事実確認と平行して捜索を開始しましょう。ビッグベアさんは、
必ず目撃した人がいるからマイを誰か見なかったか聞いてきて。
ビッグベアさんは他に助けてくれる人います?」
「俺の子分20人はいるよ」
「それじゃあ、手分けしてマイを見た人がいないか聞いてください。
見た人からどんなことでもいいから聞いてきて」
ビッグベアは、すぐさま立ち上がり心配そうなプンの頭を撫でて出て行った。
「木村さん、カーオが住んでいた家を知っているわよね。
プラモートさんと今すぐにそのアパートに行って。
もちろん、そこには誰もいないと思うわ。でもなにか必ずヒントがあるはずよ。
仏陀が残してくれているはずだわ。
そのあと、アパートの近辺のレンタカー屋でカーオが車を借りていないか調べてね」
ニンはプラモートにすぐに行動をとるように促した。
 「彩夏さんは、プンちゃんのそばにいてあげてください。」

俺とプラモートはニンの指図に従い、カーオが住んでいたアパートに向かった。
・・・・・・アパートにまだ居るかも知れない。
トンブリ地区にあるアパートまで高速を使えば30分で着く。
プラモートは車を飛ばした。
アパートに着くと俺たちは階段を駆け上がり、
部屋のドアに耳をつけて中の様子を窺がったが誰も居る気配は無い。
ドアノブを回したが鍵がかかっている。
プラモートが車からバールを持ってきて力任せに
ドアをこじ開け、部屋の中に入った。
「わりかし、部屋、かたづいているじゃん、
プラモートお前はそこの洋服タンスから探しな」
「へい、ボス」
ニンから言われたとおりにヒントになりそうなものを探し始めた。
30分、2人して部屋の隅々まで探したが手がかりになりそうなものは
何も出てこなかった。
「何も無いな、灰皿ないか」俺は煙草をとりだし、ジッポーで火を点けた。
プラモートが部屋の隅にあった灰皿を取りに行った。
灰皿の横にはごみ箱が置いてある。
ごみ箱の中の丸められた紙をプラモートは開き、見ながら言った。
「このメモに鵜とかマイとかクンとかユングとか書いてありますが何でしょう?」
「見せてみな」
俺はタイ語が読めないのに見た。
「関係ねえなあ、鵜じゃなぁ」冷たく言い放った。
プラモートは残念そうにメモをごみ箱に捨てた。
「何も出ないな、ニンに電話しよう」俺は携帯を取り出し電話をした。

「どう?なにかあった?」
「な-にも、無駄な努力ってやつかな」
「ふーん、どこかにメモみたいなものなかった?」
「うっ、あったけど関係ないかな」
「何が書いてあった」
「鵜とかマイ、クン、ユングだって。関係ないよな」
「よーし、いいわよ。そのメモ捨てないで持って来てね。
じゃあ次は近所のレンタカー屋に行ってね。
こちらは、マイの動きがわかったわよ。そのメモは役にたつかもね」
「・・・・・・」
電話を切って、珍しく猫なで声でプラモートに言った。
「さっきのメモを持ってきてくれる。それと近くにレンタカー屋が無いか探して」

ビッグベアは一時間もしないうちに、正確な情報をニンと彩夏に報告していた。
こういう時、ビッグベアの仲間は警察よりも早く頼りになる。
スラム街の人は、警察官が聞いても話さないことを
ビッグべアとその仲間には話すのだろう。
ビッグベアとその仲間の聞き込みで、マイがタラードの近くで
髪の短い二十代前半の女性に声をかけられたこと。
その女性と一緒にスラム街を歩いて出て行ったことがわかった。

俺たちは、カーオのアパートから近いレンタカー屋にいた。
レンタカー屋はアパートから5分ほど離れた県道に面したところにあった。
プラモートは、レンタカー屋の従業員に昔の軍の手帳を見せ、
偉そうに聞きこみをはじめた。
軍の手帳の効果があったのか、カーオが黒の乗用車を借りたのが直ぐにわかった。
「窓にシールの濃い車との注文だったのでよく覚えています」従業員は言った。
「いつ車を戻すことになっている」
偉そうな言い方のプラモートだがなかなか似合っている。
「はい、12時間後です」
「ここに持って来るのだな」
「うちの場合、チェーン店のどこにでも車を返していいことになっています。
車が戻ったらここに連絡がきます」
「車が戻されたら、すぐに電話をくれ。これが携帯の電話番号だ。いいな、すぐにだ」
「はい、わかりました。各支店に連絡を入れておきます」
俺は5百バーツのチップを従業員に渡し、レンタカー屋を出て、ニンに電話をした。
「さすがお2人ね。思ったとおりの情報が入ったわ。
作戦を立てるからいったん戻ってきて。
それとレンタカー屋のチェーン店がいくつあってどこにあるかも調べてきてね」
電話を切り、
「そうだ、プラモート、レンタカー屋のチェーン店がいくつあって
どこにあるか知りたい。レンタカー屋のパンフレットを戻ってもらって来てくれ」

車の後部座席の足元に転がされてマイは恐怖に泣いていた。
クンは片方のヒールでマイの下腹部と柔らかな胸を交互に踏みつける。
それでも物足りないのか、今度は腹を靴のつま先で蹴り、
顔を踏みにじりはじめた。
後部座席の様子をバックミラーで見ていたカーオは、
過激なクンを止めないとマイが殺されると思った。
殺したら意味がない。
「クン、もうすぐ着く。着いたらシャブを打つ前に、
マイの爪をはがさせてやる。今は止めとけ」
・・・・・・爪なら、また生えてくるだろう。

マイの家ではニンが中心となって、作戦会議が開かれ、
立てた作戦を皆に指示した。
「事態は一刻を争うと思うの。
状況から判断してかなりマイが危ないでしょう。
でもチャンスがないわけではないと思うの。
カーオが12時間以内にレンタカーを返すことにかけましょう。
それで、皆にお願いがあるの。名づけてモータサイ作戦」
モータサイトとは、市内を走るオートバイタクシーで
通りの角にいつも10台以上待機している。
皆は、身を乗り出し、作戦を聞いた。
「レンタカー屋の支店がどこにあるか見せて。
ふーん、全部で十店舗ね。ところで、カーオは何時に車を借りたの?」
「おい、プラモート何時だ?」
「えっ・・・・・・」 突然、振られた質問にプラモートは俺の目を見た。
「聞いとけって言ったじゃないか」目配せして言った。
「あっ、はい。今、聞きます」
プラモートは当然、指示されていなかったがここで恥をかかすわけにはいかない。
プラモートは、先ほどのレンタカー屋に電話をした。
「10時30分だそうです」
「ありがとう。まず、携帯電話を10台以上借りてきて。
お金は木村さんが全部出すわ」
思いきりにっこり笑ったつもりだが。 皆には引きつった笑いのように見えたかも。
ビッグベアの舎弟がすぐに俺から金を奪い、携帯電話を借りに走った。
「それと、すぐにモータサイを今から14台キープして」
ニンに言われる前に俺はお金を出した。またまた、ビッグベアの舎弟が走った。
「もう皆はわかったと思うけど、今から皆に携帯を持って
レンタカー屋の10店舗にモータサイに乗って行ってもらうわ。
カーオが現れたらわたしに電話を頂戴。見つけた人は、カーオの跡をそっとつけて行き、
場所をつきとめてからもう一度電話をちょうだい。
その間に他の人は、モータサイで、現れたレンタカー屋に集まってね。
そうそう、木村さんカーオの借りた車両のナンバーは?」
「おい、プラモート」ニンがにっこり笑って俺を見た。
プラモートはレンタカー屋にまたまた電話をかけた。
「プラモートさん、あなたは元軍人ですよね。この作戦の指揮をとってね。
ビッグベアの仲間にもう一度作戦を伝えて、
すぐに動いてもらってください。時間がないわ」
プラモートはニンに元軍人と認められ、
ビッグベアの部下を張り切って指揮し始めた。
「私と木村さんとビッグベアは、ミンブリー区にある
レンタカー屋の近くで待機しましょう」
「なんでミンブリーなの?」わけがわからず俺はニンに聞いた。
「マイとクンとユングというのはカーオが稼がせていた女性です。
まったくろくな男じゃあないわ。今回、マイを連れ出したのは、
年恰好からしてクンね。
クンのアパートはカーオのアパートの近くにあるの。
だから心理的には恐らくそこを避けるでしょう。それと、
ユングは今週イサーン地方の田舎に帰っていてアパートにいないわ。
残念ながらユングの詳しい住所はわからなかったけれど、
ミンブリーあたりということはわかったわ」
「すげー。何故、そんなことをこんな短時間でわかったの?」
俺は唖然としてニンに聞いた。
「本当は、企業秘密だけどね。タニヤの女帝、
クラブ恋のグランドママに事情を言って聞いたの。
一流クラブのママとタニヤで働いている一部の人は知っているわ。
実は、クラブ間でお客とホステスの詳細情報を交換していて、
すべての情報がクラブ恋のグランドママのところにあるの。
毎日、最新情報に置き換えているわ。一見の客は別として、
タニヤでお金を落としてくれる駐在員がどこのお店でいくら使って、
誰を指名したか、ホステスが誰と付き合っているのかなどね。
本人が知らなくても情報管理しているの。
そういう情報が載っているタニヤ新聞が情報提供したママに配られるのよ。
あなたが、マリコポーロのヤーさんを連続して指名したこともわかったわ」
ニンは、俺の太腿を思いきりつねりながら言った。
「ひぃー。わかったとにかく急ごう」
俺は分が悪くなったので、皆を急がせて立上った。
「私も行くわ」
彩夏が立ち上がろうとするのをニンは制止し、
「彩夏さんはここでプンさんと一緒に待っていてください」  



泰田ゆうじ プロフィール
元タイ王国駐在員
著作 スラム街の少女 等
東京都新宿区生まれ




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